「摂食嚥下障害」という言葉をご存知ですか?医療施設や高齢者施設で働いている人なら聞いたことがあると思います。摂食嚥下障害とは、食べ物を認識してから咀嚼し飲み込むといった一連の動作(摂食嚥下)に障害があることをいい、むせる・うまく飲み込めないなどの症状が起きます。加齢による機能低下やガンや脳卒中などさまざまな疾患が原因で起きる障害です。人口の高齢化に伴い、摂食嚥下障害がある方は今後も増えていくと予想されます。
この記事では、管理栄養士だけが取得できる、摂食嚥下障害に関する資格「摂食嚥下リハビリテーション栄養専門管理栄養士」について、定義や活躍の場、資格取得の方法や試験の詳細などをご紹介します。
目次
摂食嚥下リハビリテーション栄養専門管理栄養士ってどんな資格?
摂食嚥下リハビリテーション栄養専門管理栄養士とは、平成28年度につくられた認定資格です。定義は以下の通りです。
『摂食嚥下リハビリテーションの基本的知識と栄養管理に関する技能を修得し、医療機関や介護(福祉)施設とともに在宅においても、摂食嚥下障害を持つ患者や家族に対し栄養管理と専門的な食・栄養支援を行うことでQOL向上に貢献できる管理栄養士』
出典:公益社団法人 日本栄養士会
認定元は、公益社団法人日本栄養士会と一般社団法人日本摂食嚥下リハビリテーション学会です。
第1回の試験が行われた平成28年度の認定者数は27名です。新しい資格ということもあり、その認知度はまだ低いかもしれませんが、摂食嚥下障害に対する栄養管理や食事サポートに関する資格はこの「摂食嚥下障害リハビリテーション栄養専門管理栄養士」だけです。
この資格は、厚生労働省が日本栄養士会に委託している管理栄養士の専門分野別育成事業のひとつです。高度な専門性を発揮できる管理栄養士の育成に力を入れる背景には、日本人の死因第3位である「肺炎」が関係すると考えられます。肺炎によって亡くなる方の約95%は65歳以上で、その原因は高齢による体力の衰えや誤嚥などです。誤嚥による肺炎は「誤嚥性肺炎」といい、摂食嚥下障害があるとそのリスクも高まります。誤嚥性肺炎のリスクを減らすために、対象者の嚥下状態を把握し、栄養管理と最適な食事マネジメントをすることはとても重要です。その役割の担い手となるのが摂食嚥下障害リハビリテーション栄養専門管理栄養士です。
仕事内容
仕事内容は摂食嚥下障害の患者さんと関わっている管理栄養士とほとんど変わりはないようです。
たとえば病院や高齢者施設では、対象者の摂食条件に最適な食事形態の調整や、在宅に戻った時の環境を考慮した食事の指導・アドバイスなどの支援をします。
主な活躍の場
摂食嚥下リハビリテーション栄養専門管理栄養士の主な活躍の場をご紹介します。
上記は、認定取得者が実際に働いている場所の一例です。さらに高齢化が進むことが予測されているため、活躍の場は今後も増えていくでしょう。
給与
この資格はできて日が浅く未知数であるため、現状では、資格を取得することによって給与が大きく変わることはないようです。資格取得者のこれからの活躍によって今後、資格手当がつく可能性があります。
資格の取得方法
摂食嚥下リハビリテーション栄養専門管理栄養士になるには、下記の受験資格を満たしたうえで試験に合格する必要があります。
認定試験の受験資格
以下の4つの要件をすべて満たすことが、受験資格となります。
- 管理栄養士免許を保有し、管理栄養士として優れた人格と見識を備えていること
- 日本栄養士会および日本摂食嚥下リハビリテーション学会の会員であること
- 日本摂食嚥下リハビリテーション学会認定士の資格取得者であること
- 以下の要件を満たしていること
受験資格の詳細は日本栄養士会の 『【お知らせ】「摂食嚥下リハビリテーション栄養専門管理栄養士」の育成が始まります』をご覧ください。
日本摂食嚥下リハビリテーション学会認定士について
日本摂食嚥下リハビリテーション学会が認定する資格です。条件を満たした上で試験に合格すると、その資格を取得できます。
受験資格
以下3つの条件を満たしていることが受験資格となります。
- 日本摂食嚥下リハビリテーション学会の会員歴が2年以上であること
- 摂食嚥下に関する臨床または研究歴が通算3年以上であること
- 日本摂食嚥下リハビリテーション学会のeラーニングを全課程受講し、修了していること
受験資格の詳細は日本摂食嚥下リハビリテーション学会の 『認定士試験及び認定士登録規程』をご覧ください。
認定試験
認定試験の詳細は下記の通りです。
資格更新
認定士は、認定資格取得後5年毎の資格更新が必要となります。
資格更新には、下記の要件を満たした上で、更新に必要な取得単位数を証明する書類等を認定委員会に提出します。認定委員会の審査に合格をすると、資格更新の登録をすることができます。
資格更新のための要件
- 日本摂食嚥下リハビリテーション学会の会員
- 資格取得日か更新日から5年の間に学会の定める活動を単位変換し、所定の単位(2011年受験の資格更新者は200単位)以上を取得した者
※学会の定める活動=学術大会参加、認定士単位セミナーあるいは学術大会などで行われる教育的セミナー参加、論文掲載、学術発表、eラーニング学習
資格更新に関する詳細情報は日本摂食嚥下リハビリテーション学会の 『認定士資格更新に関する規程』
をご覧ください。
専門研修について
摂食嚥下リハビリテーション栄養専門管理栄養士認定試験を受験するためには、専門の研修を受けることが必須要件となります。過去に開催された第1回と第2回の詳細は以下の通りです。
受験資格
「摂食嚥下リハビリテーション栄養専門管理栄養士」を受験する者
日程
7月~8月頃の2日間
(第1回は平成28年8月6日(土)~8月7日(日)、第2回は平成29年7月22日(土)~7月23日(日)に開催)
定員
受講する回によって変動あり
(第1回は120名、第2回は40名)
会場
受講する回によって変動あり
(第1回は和洋女子大学、第2回は東京家政学院大学にて開催)
受講料
30,000円(2日間)
申込方法
日本栄養士会ホームページにて受付
内容・プログラム
内容は受講される回によって、異なります。第1回と第2回の研修内容は以下の通りです。
<1日目> | <2日目> |
---|---|
・ガイダンス | ・摂食嚥下リハビリテーションとは |
・摂食嚥下リハビリテーション総論 | ・摂食嚥下リハビリテーションの食事介入②(実習) |
・摂食嚥下障害患者の栄養ケアプロセス(講義と演習) | ・摂食嚥下障害患者の食事の調整とテクスチャー統一(実習) |
・摂食嚥下リハビリテーションの食事介入①(演習) | ・文献収集・データのまとめ方 |
<1日目> | <2日目> |
---|---|
・ガイダンス | ・調理実習 |
・摂食嚥下リハビリテーション総論(講義) | ・摂食嚥下障害の原因と病態(講義) |
・摂食嚥下障害患者の栄養ケアプロセス(講義と演習) | ・試食(演習) |
・ランチディスカッション | ・文献収集・データのまとめ方(講義) |
・調理実習 | ・まとめ |
・コミュニケーション(講義・演習) | |
・グループワーク |
認定試験について
専門研修を修了すると、認定試験を受験することが可能になります。認定試験の詳細は下記の通りです。
認定試験の日程
12月頃
(第1回は平成28年12月11日(日)、第2回は平成29年12月10日(日)に開催)
認定試験の会場
受験する回によって変動あり
(第1回は大妻女子大学、第2回は日本栄養士会 事務局にて開催)
受験料
15,000円
申し込み方法
専門研修時にアナウンス
開催頻度
現状では年に1回
口から食べられる喜びを多くの人に
医療施設や高齢者施設で働いていると、食べることを苦痛に感じていたり、全く口から食べられなかったりするほど重症な摂食嚥下障害の患者さんに接する機会があります。
この資格を取得することによって、摂食嚥下障害の患者さんに対してより専門的な食事や栄養支援をすることができます。患者さんが楽しく食事ができるようになったり、もう一度口から食べる喜びを感じてもらえたりすることは、大きなやりがいになるでしょう。
摂食嚥下リハビリテーション栄養専門管理栄養士は新しい資格なので、認知度は低いかもしれません。しかし、摂食嚥下障害に対する専門性を兼ね揃えた管理栄養士の需要は高まってきているため、担う役割は大きいものでしょう。時代のニーズに応え、口から食べる喜びを多くの人に届けるために、資格取得を目指してみてはいかがでしょうか。
参考文献・サイト
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