私はこれまでに保育園・幼稚園をはじめとした児童福祉施設で10年以上勤め、現在は園児・職員合わせて300人強の認定こども園の栄養士をしています。
新人栄養士さんは時間と業務に追われる毎日だと思いますが、少しずつ現場の仕事に慣れてきたころでしょうか?
私も新人のころはやることが多く、本当にバタバタでした。上司や先輩の指示に従って必死に動いて、1年経ってからようやく仕事の流れが掴めた感覚を覚えたものです。
そこで今回は、児童福祉施設で10年以上の勤続歴がある私から新人栄養士さんに向けて、
・児童福祉施設での年間業務・月別業務の全体像
・これまで培ってきた自分の経験
・新人の栄養士さんに向けたアドバイス
をお話します。
これから現場で業務を行う上でのヒントとして、役立てて頂けたらと思います。
目次
児童福祉施設で働く栄養士の年間業務とは?
まずは、児童福祉施設での年間を通じての業務を紹介します。
・献立作成
・食事だよりの作成
・帳簿管理
・原価計算
・発注、在庫管理
・調理
・配膳、下膳
・洗浄
・徹底した掃除と消毒
このように、児童福祉施設で働く栄養士の年間業務は多岐にわたります。
ときどき「栄養士ってどんな仕事しているの?」と聞かれるときがありますが、そんなとき私は「企画・管理・運営をやっています」と答えています。
献立作成の種類ですが、私がいま勤めている認定こども園では0~6歳児まで在園しているため、1~3号認定までの認定区分別の献立表やアレルギー児対応献立表(個人別)、そして離乳食献立表(段階別)など、10種類くらいの献立表を作成しています。
季節をめぐる献立の提供も大切な業務
保育園や幼稚園では、季節ごとに「こどもの日」や「たなばた」などの「行事食」を取り入れたり、ハロウィンやバレンタインなどの「イベント食」を提供したりしています。
季節による変化を食事を通して提供することで子ども達は給食に対する楽しみを覚えてくれるようになるため、季節の献立は非常に大切です。
子ども達に食事を楽しんでもらう工夫として、「食事だより」でその節句のいわれや習わしなどを書くこともオススメです。
私も、行事やイベントごとの豆知識を食事だよりに書いて紹介しています。
さて、それでは春夏秋冬ごとの仕事のポイントと主な季節の献立の特徴、そして月ごとに発生する業務について解説していきましょう。
【春】Welcome新入園児!新入園児もリラックスできる献立を!
保育園や幼稚園での毎日は、子ども達にとっては、初めての集団生活になります。
家族と離れてお友達や先生と過ごすのは、慣れないことや不安なことも多く、お迎えが来るまで泣きじゃくっていたり、お昼寝も途中で起きてしまったりして、先生達が交代であやしている姿をこの時期はよく見かけます。
そのため、私たち栄養士は、子ども達が園での生活に慣れるまでの間は、子どもが好んで食べてくれそうな唐揚げやハンバーグ、焼き魚などのメニューを出すことで、園児たちをリラックスさせることを心がけています。
4月 入園・進級
月の献立
・入園・進級お祝い献立
月別業務
・給食試食会のメニュー検討
内容は担任に依頼・検討してもらっています。
・内科健診
内科検診は私たち栄養士にも関わりがある行事です。
園児たちの身長・体重・生年月日をもとに、食品群別目標量・給与栄養目標の設定を行う必要があります。
私が出向しているこども園は園児数が多く、入力作業に時間を要するので、早めにこの作業をスタートすることが、業務に遅れを生じさせないうえでのコツです。
また、4月は大型連休を控えているので、取引業者やメーカーの注文締切が通常よりかなり早まります。今年は10連休だったので、頭から煙が出るかと思うくらいの忙しさでした……。
新人栄養士さんに一言アドバイス
新人の栄養士さんは、大型連休の前に前倒しで納品の作業を進めておくことを覚えておいてくださいね。
5月 こどもの日
月の献立
・こどもの日献立
・誕生日会献立
私が担当している幼稚園では2ヶ月に1度、2ヶ月分の誕生児のお祝いをします。
いつもより手間ひまかけたものや、園児が喜んでくれそうなものを作り、アレルギーにも対応した献立を提供するようにしています。
月別業務
・給食試食会
「給食試食会」は、年長・年中・年少と、学年ごとに園児と保護者が一緒に給食を食べるイベント。私の職場では3日間開催されます。
献立を決める際は、4月に担任の先生たちから人気の献立をピックアップしてもらってその中から作成しています。
同時に、保護者を対象とした「喫食アンケート」も行っています。
アンケートで質問している内容の一例はこんな感じです。
・今まで食べた給食で好きなもの、または苦手なものはなんですか?
・好きな肉・魚・野菜料理はそれぞれ何がありますか?
・給食に望むことはありますか?
・今後給食に出して欲しいメニューはありますか?
・今日の給食の量は、園児の食事量に適切でしたか?
アンケートは、結果の集計後に食事だよりに掲載し、質問や改善要望が書かれていたりする時は、書面にて回答しています。
アンケートを通して普段の家庭での食生活や給食に対する保護者の思いもうかがえますし、出して欲しいメニューを実際に取り入れることもあります。私にとっては宝物のような存在です。
新人栄養士さんに一言アドバイス
給食試食会での喫食アンケートは、保護者と給食担当者が関わりをもてる、とても重要な機会です。
ぜひ、きちんと目を通して、園児たちの家庭での食事の様子や保護者の要望などを把握するようにしてみてくださいね。
6月 梅雨
月の献立
・誕生日会献立(6・7月)
月別業務
・給食状況報告の提出
給食実施状況報告を保健所に提出するこの時期は、入力業務に追われています。
報告書は自治体によって、様式が異なるようです。
私が住んでいる所では、「食品群別目標量及び給与量」・「給与栄養目標量及び給与量」などを記入していますが、6月の提出時のみ、「肥満者及びやせの者の人数及び割合」の記入も必要です。
私が担当しているのは認定こども園なので、幼稚園部と保育園部と分けて報告書を作成しています。
【夏】 調理場の暑さ対策が夏を乗り切るカギ!食中毒への注意も最大限に
火を使うので、夏場はとにかく熱いし暑い!
私の職場では、調理が終了した時点で換気扇を止めて外気を遮断し、エアコンを最低温度で常時フル回転しています。
また、熱中症にならないよう、こまめな水分や塩分をとるなどの対策も忘れません。
食中毒対策も、より一層注意して行う必要があるのが夏です。
和え物などは、作ったらすぐさま冷蔵庫にいれて冷やすようにしています。
新人栄養士さんへ一言アドバイス
暑さ対策を充分に行うことが、この時期の仕事を乗り越えるコツです!
また、食中毒にはくれぐれも気をつけて、菌の繁殖を防げる工夫を徹底的に行ってくださいね。
7月 暑気払い
月の献立
・七夕献立
星型コロッケや天の川スープを献立に取り入れています。
暑気払いとして、7月はたくさんすいかを食べさせることで、園児たちの体にたまった熱気を取り除くことに注意しています。
月別業務
害虫・ねずみの対策はこの時期に行います。
というのも、7月半ばから8月の下旬まで1号認定の園児は夏休みに入るので、食数が少なくなります。
そこで、私の職場では、園児達が夏休みに入った頃合いを見計らって、害虫・ねずみの防除施工とグリストラップの清掃を業者さんにお願いしています(7月を含めて年3回)。
新人栄養士さんに一言アドバイス
猛暑日は園の先生と相談して、喫食するギリギリの時間に搬出することが食事を傷ませないポイントです!
8月 夏休み
月別業務
・新作メニュー試作
夏休み中なので、目立った月の献立はありません。
ですが、2・3号認定の園児が登園しているため、食数が少ないこの時を利用して、新作メニューを献立に取り入れて、子ども達の反応を見たり、作業工程を考えたりしています。
【秋】食欲の秋到来!園児たちの食欲も増す季節
夏休みが終わり、運動会の練習が始まると、園児たちの活動量は増えるので、今まで以上に食欲が増してきます。
そのため、ご飯の量もこの時期に増量することがあります。
また、梨や栗、芋、かぼちゃといった秋野菜・果物が出回りだすので、献立も秋色に変化していくのがこの時期の食事の特徴です。
9月 秋分の日
月の献立
・秋分の日献立
栗ごはんや吹き寄せごはん、さんまやきのこ和え、梨や柿など秋にちなんだメニューにしています。
・十五夜献立
十五夜は芋名月とも呼ばれていますが、里芋の新芋を供えたことが由来だそうです。献立にはけんちん汁などを取り入れています。
・誕生日会献立(8・9月)
・リクエスト献立(年長2クラス)
私の職場では年長組から順番にアンケート調査をして、園児たちのリクエストを献立に取り入れる「リクエスト献立」を実施しています。
リクエスト献立は、主食・主菜・副菜・汁物・デザートに分けて、第1~3候補まで決めてもらい、バランスをみながら構成していきます。
候補から外れてしまったメニューもその月のどこかに入れるようにしている点も特徴です。
園児たちの嗜好調査を目的としていますが、リクエストを募集することは子ども達の食に対する意欲向上にもつながりますし、何より子ども達がとても楽しみにしてくれるので、毎年行っています。
人気のメニューとしてランクインする頻度が高いのは、ラーメン・唐揚げ・ぎょうざ・れんこんチップス、ハンバーグ、野菜ののり和え、ゼリー、プリンなどです。
10月 ハロウィン
月の献立
・十三夜献立
十三夜は別名、栗名月ともいわれていますが、これは栗を供えることが由来になっているそです。そのため、献立には栗ごはんを取り入れています。
・ハロウィン献立
かぼちゃを使ったメニューにしているのですが、なぜか私の担当している幼稚園の子ども達はかぼちゃが苦手なんです。
今までグラタンやスープ、煮物などいろいろ試してみたものの、先生達には好評なんですが、子ども達には不評なので苦戦しています……。
ただし、かぼちゃとひき肉のフライと、かぼちゃが練りこんであるジャック・オ・ランタンの型のハンバーグは食べてくれるので、毎年そのどちらかを提供しています。
・誕生日会献立
・リクエスト献立(年長1クラス・年中1クラス)
11月 七五三
月の献立
・七五三献立
これは、保育園・幼稚園ならではの献立だと思います。
子どもの健やかな成長を願うのは、 給食担当者も保護者と同じ思いです。ささやかですが、お祝い献立を取り入れています。
・リクエスト献立(年中2クラス)
【冬】防寒対策は万全に!ノロウイルスなど感染症の予防や体調管理には調理場全体で取り組むべし
夏場とは反対に、冬場の厨房はとにかく寒いです。朝は冷蔵庫よりも冷えていることもあります。
そのため、防寒対策としてインナーベストを作業着の中に着たり、靴底にインソールを敷いたりするなどして、寒さから身を守りましょう。
私は過去に、作業着のパンツの足元からすきま風が入ってくるのが寒かったので、ジャージタイプで裾がゴムのタイプのものに切り替えたことがあります。
新人栄養士さんへ一言アドバイス
スタッフがノロウイルスやインフルエンザになってしまうと、集団感染のリスクを高めます。職場の衛生環境の整備は調理場の人間が一丸となって取り組むべきです。
体調管理は本当に大事ですので、新人の栄養士さんたちも、常々留意するようにしてくださいね。
12月 クリスマス
月の献立
・冬至献立
「ん」がつくものを食べると良いとされているので、南瓜(なんきん)やみかんを献立に入れています。(私は験担ぎするタイプです)
・クリスマス献立
もみの木型のハンバーグやフライドチキンを献立に取り入れています。
・もちつき
子ども達がついたおもちで(半分ほどしかつぶさず粒が残る程度のおもち)お雑煮にしています)
・リクエスト献立(年少2クラス)
月別業務
・給食実施状況報告書提出(11月分)
・監査資料チェック
11月に実施される保健所による監査では、「温度管理点検表及び検収記録」・「衛生管理点検表」・「給食実施状況報告」・「害虫・ねずみ駆除報告書」・「従業員健康診断結果」などを提出しています。
新人栄養士さんへ一言アドバイス
監査で提出する書類には、日付もれや記入もれがないか忘れず確認!
1月 お正月
月の献立
・七草献立
七草スープにしています。
・誕生日会献立(12・1月)
・リクエスト献立(年少1クラス、3歳児クラス1クラス)
月別業務
・書面指導監査
認定こども園では、毎年監査があるようです。12月中に確認した資料をもう一度見直して、前日に幼稚園部に提出しておきます。
※日頃の帳簿管理をきちんとおこなっているかどうか、ここで明暗が分かれます。
2月 節分
月の献立
・節分献立
大豆やしらすを使ったメニューにしています。
・バレンタイン献立
ハート型のハンバーグやチョコレートババロアを出しています。
・リクエスト献立(乳児組)
2月のリクエスト献立は、乳児組の番になります。
2歳児クラスはお話ができる子もいるので、答えられる範囲で先生に聞いてもらっていますが、それより月齢が低いクラスは、担任の先生に人気のあるメニューをリクエストしてもらっています。
月別業務
・面接対応
児童福祉施設では、2月から乳児組~幼稚園部の新入園児の面接が始まるのですが、アレルギーがあったり、発達状況で食事の進み具合がゆっくりだったりする場合は、別途栄養士も面接に加わり、さらに詳しく問診することもあります。
3月 ひなまつり
月の献立
・ひなまつり献立
鮭が入った炊き込みご飯やお花型のハンバーグ、花麸が入ったすまし汁にしたりしています。
・年長組3クラスリクエスト献立
卒園するので、3月にもう1度リクエスト献立を実施します。
・卒園お祝い献立
月別業務
・新年度準備
新年度の準備では、主に帳簿作成・整理、アレルギー対応園児・同意書ネームプレート作成、クラスの人数の書き換えなどを行います。
栄養士は子ども達のヘルスサポーター!新人栄養士さんはそのことに誇りを持ってほしい
児童福祉施設における年間業務や月別業務、季節の献立の特徴などを紹介してきました。
新人栄養士さんの参考になったでしょうか?
新人栄養士さんたちに大事にして欲しいのは、わからないことを周囲に相談することです。
児童福祉施設の場合、食数に対して調理スタッフが2~4人という少数で従事しているケースが多いと思うので、チームワークがとても重要だと思います。
わからないことやつまずくことがあれば、1人で抱え込まないで、周りの先輩や同僚への相談が肝心です。
今、私がこうして10年以上も児童福祉施設で仕事が続けられているのも、保育園や幼稚園で勤務していた時に支えてくれた先輩や同僚のおかげだと思っています。
子どもって、とても素直で正直で、かわいいんです。
「おいしかったよ。ごちそうさま。いつもおいしい給食を作ってくれてありがとう」
キラキラした笑顔でそう話しかけてくれることに、栄養士として何よりの喜びを感じられます。
とくに、0~6歳児は人間が1番大きく成長していく大切な時期です。
そうした大きな成長期にいる子ども達の心やからだを豊かにする私たちは、子ども達のヘルスサポーターです。
新人栄養士さんたちは「自分も子ども達のヘルスサポーターの一員なんだ」と、仕事に誇りを持って、まい進して行ってくださいね。
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