国民の食と栄養のサポートを使命とする栄養士・管理栄養士のみなさんなら、一度は「食生活指針」を耳にしたことがあるでしょう。
食生活指針は2000年3月に文部省・厚生労働省・農林水産省によって策定され、日本人の食生活と健康を守るうえで必要な注意点や改善点が記載されました。
その食生活指針が、2016年6月に一部改定されたことをご存知ですか?
改定された内容の把握は、国が現在推進している食の方針を確認することにもなりますので、栄養士・管理栄養士さんたちの業務改善にも役立つことでしょう。
今回は、食生活指針が改定された内容やそのポイントを解説します。
目次
食生活指針の策定は食生活に関する諸問題がきっかけ
食生活指針は、国民の食と栄養に関わる関係機関などが、国内の食生活に関する諸問題の解決をはかるために共有する方向性を定めたものです。
内容は食生活の全体を構成する食料生産や流通、健康といった要素を広く視野に入れて作成されており、生活の質(QOL)向上に主眼が置かれています。
策定のきっかけは、平均寿命の伸長にともなって生活習慣病が増加していることや健康・栄養に関する玉石混交な情報の氾濫、食習慣の乱れ、生活習慣病、食料自給率低下など、国内の食生活に関する問題の台頭にありました。
改定の背景は国内の「食」をめぐる変化
さて、平成12年の策定時から改定があった平成28年までの間には、このような「食」をめぐる大きな変化がありました。
・食育基本法制定(2005年)
・国民健康づくり運動である「健康日本21(第二次)」の開始(2013年)
・「和食;日本人の伝統的な食文化」がユネスコ無形文化遺産に選出(平成25年)
・「第3次食育推進基本計画」が開始(2016年)
◆参考:農林水産省「『食生活指針』改定ポイント」
このような改定にいたるまでの16年間に起こった出来事をベースに、政府は生活指針の見直しと改定を行うことになったのです。
4つの項目が改定!重視されたのは肥満・低栄養などの健康課題
食生活指針は、改定前・改定後と共通して10項目が設けられています。
今回の改定にあたって重視された要素のひとつには、肥満予防と低栄養予防など、昨今の国内における健康課題がありました。
また、食料生産と消費までの循環や食品ロスの削減なども昨今の食をめぐる重大な問題として、改定前の指針に記載されていた表現が現状に見合うよう、一部見直されました。
わかりやすく比較するために、改定前・改定後の中身を表で見てみましょう。
改定前(2000年)
1.食事を楽しみましょう。 |
2.1日の食事のリズムから、健やかな生活リズムを。 |
3.主食、主菜、副菜を基本に、食事のバランスを。 |
4.ごはんなどの穀類をしっかりと。 |
5.野菜・果物、牛乳・乳製品、豆類、魚なども組み合わせて。 |
6.食塩や脂肪は控えめに。 |
7.適正体重を知り、日々の活動に見合った食事量を。 |
8.食文化や地域の産物を活かし、ときには新しい料理も。 |
9.調理や保存を上手にして無駄や廃棄を少なく。 |
10.自分の食生活を見直してみましょう。 |
改定後(2016年)
1.食事を楽しみましょう。 |
2.1日の食事のリズムから、健やかな生活リズムを。 |
3.適度な運動とバランスのよい食事で、適正体重の維持を。 |
4.主食、主菜、副菜を基本に、食事のバランスを。 |
5.ごはんなどの穀類をしっかりと。 |
6.野菜・果物、牛乳・乳製品、豆類、魚なども組み合わせて。 |
7.食塩は控えめに、脂肪は質と量を考えて。 |
8.日本の食文化や地域の産物を活かし、郷土の味の継承を。 |
9.食料資源を大切に、無駄や廃棄の少ない食生活を。 |
10.「食」に関する理解を深め、食生活を見直してみましょう。 |
◆参考:農林水産省「『食生活指針』改定ポイント」
こうして見ると、変更があったのは以下の項目であることがわかります。
①「適正体重を知り、日々の活動に見合った食事量を。」
→「適度な運動とバランスのよい食事で、適正体重の維持を。」
改定にあたり、肥満や低栄養は昨今の食をめぐる健康課題として重要視されました。
国内における「肥満者」の3割程度は30~~60代の男性です。
一方、「やせ」に該当する人のうち、19.5%は若年の女性という現状があります。
また、少子高齢にともない高齢者は増加しているため、低栄養の問題も無視できないため、対策が求められています。
適正体重の維持のためには、体重のこまめな測定や体重の変化に早く気づくといった対策が必要です。無理な減量も推奨されていません。
②「食塩や脂肪は控えめに。」
→「食塩は控えめに、脂肪は質と量を考えて。」
「日本人の食事摂取基準(2015年)」では、1日あたりの食塩摂取量の目標値は男性が8g未満、女性が7g未満とされています。
この数値は高血圧予防の観点から定められており、食塩の取りすぎには注意が必要です。同様に、脂肪の取りすぎにも注意しましょう。
③「食文化や地域の産物を活かし、ときには新しい料理も。」
→「日本の食文化や地域の産物を活かし、郷土の味の継承を。」
ユネスコの無形文化遺産に「和食;日本人の伝統的な食文化」が登録されたことから、和食文化に対する理解を深める重要性が高まっています。
また、郷土料理を食卓に並べることは家庭で豊かな食生活を展開することや食事の楽しみに繋がるため、大切な要素として改めて策定されました。
④「調理や保存を上手にして無駄や廃棄を少なく。」
→「食料資源を大切に、無駄や廃棄の少ない食生活を。」
世界では食料不足の問題が進行している一方、日本では家庭から出る食品ロスの問題が深刻化しています。国内における食品ロスの推計結果は300万トン。
このように、2016年の改定では2000年から世界や国内で起こった食にまつわる諸問題や変化がベースになっており、どの改訂項目についても、すべての栄養士・管理栄養士にとって重要です。
①と②は病院や高齢者施設など喫緊の健康・栄養課題を抱える人ではない、一般の人々でも栄養バランスについてより繊細な視点での栄養指導が必要になっている証左でしょう。
また、③は保育施設や学校など、「食育」の重要性が高い施設に関わる栄養士・管理栄養士にとっては、和食文化をより意識的に実践に取り入れていく必要があります。
④は栄養士・管理栄養士は「栄養のことだけを考える」のではなく、食品ロスなども含めた経営的な視点が求められているということでしょう。大量調理に携わる栄養士・管理栄養士にとっては見過ごせない項目です。
改定後の食生活指針の概要と実践のポイント
ここで、食生活指針10項目の概要や食生活指針の実践に関するポイントを紹介します。
①食事を楽しみましょう。 ●毎日の食事で、健康寿命をのばしましょう。 ●おいしい食事を、味わいながらゆっくりよく噛んで食べましょう。 ● 家族の団らんや人との交流を大切に、また、食事づくりに参加しましょう。 |
②1日の食事のリズムから、健やかな生活リズムを。
●朝食で、いきいきした1日を始めましょう。 |
③適度な運動とバランスのよい食事で、適正体重の維持を。
●普段から体重を量り、食事量に気をつけましょう。 |
④ 主食、主菜、副菜を基本に、食事のバランスを。
●多様な食品を組み合わせましょう。 |
⑤ごはんなどの穀類をしっかりと。
●穀類を毎食とって、糖質からのエネルギー摂取を適正に 保ちましょう。 |
⑥野菜・果物、牛乳・乳製品、豆類、魚なども組み合わせて。
●たっぷり野菜と毎日の果物で、ビタミン、ミネラル、食物繊維をと りましょう。 |
⑦食塩は控えめに、脂肪は質と量を考えて。
●食塩の多い食品や料理を控えめにしましょう。食塩摂取量の目標 値は、男性で1日8g未満、女性で7g未満とされています。 |
⑧日本の食文化や地域の産物を活かし、郷土の味の継承を。
●「和食」をはじめとした日本の食文化を大切にして、日々の食生活に 活かしましょう。 |
⑨食料資源を大切に、無駄や廃棄の少ない食生活を。
●まだ食べられるのに廃棄されている食品ロスを減らしましょ う。 |
⑩「食」に関する理解を深め、食生活を見直してみましょう。
●子供のころから、食生活を大切にしましょう。 |
農林水産省「食生活指針の解説要領」から一部抜粋
食生活改善・教育・食品産業・農林漁業分野での推進も必要
改定後の食生活指針では、以下の4つの取組みを推進することも明らかになりました。
①食生活改善分野における推進
②教育分野における推進
③食品産業分野における推進
④農林漁業分野における推進
①「食生活改善分野における推進」
食生活指針においては、健康増進と生活の質を向上をはかるべく、国民一人ひとりが食生活を見直すことが重要視されています。
そのため、食生活の改善をサポートする役割をもつ栄養士・管理栄養士たちは、このような取り組みを推進していくことが必要です。
ア 適正な栄養・食生活に関する知識の普及
イ 健康で主体的な食習慣の形成を目指した働きかけ
ウ 地域や,各ライフステージの特徴に応じた栄養教育の展開
エ 栄養成分表示の普及をはじめとした食環境の整備
②「教育分野における推進」
食生活の基盤を整える段階にいる成長途中の子ども達を対象に、学校栄養職員や教員は食生活に対する正しい理解と習慣をつけるべく、教育活動を行います。そのためには、家庭との連携も欠かせません。
③「食品産業分野における推進」
食品産業関係者は消費者が適切な食品を選択できるよう、次のような取り組みを推進していく必要があります。
ア 地域の産物,旬の素材を利用した料理や食品の提供
イ 減塩,低脂肪の料理や食品の提供
ウ 容器等を工夫して量の選択ができるような料理や食品の提供
エ エネルギー,栄養素等の情報の提供
オ 様々な人達が楽しく安心して交流できる場づくりや体験・見 学等の機会の提供の推進
④「農林漁業分野における推進」
農林漁業に携わる人たちには、消費者・実需者が求める食料供給の推進が求められます。
また、農林漁業の体験や見学の機会の提供などを通じ、消費者の食や農林漁業に対する理解を深める取り組みも期待されています。
まとめ
栄養士・管理栄養士としては、国が提示する食に関する方向性や方針の確認は重要です。
なかには国内の食の問題がきっかけで設けられた項目もあるため、食生活指針の把握は日本の食の問題を理解し、業務改善に役立てることにも繋がるでしょう。
献立作成や栄養指導などの際には、ぜひ指針を活かしてみてくださいね。
参考文献・サイト
農林水産省「『食生活指針』改定ポイント」(2018年8月26日)
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