がんをはじめとする重病にかかった患者さんの心身をサポートするため、多くの病院では「緩和ケアチーム」というカンファレンスが設けられています。
管理栄養士もそこで活躍するメンバーのひとり。
管理栄養士だからこそできる業務や役割もあるため、緩和ケアチームにおける管理栄養士の存在は重要です。
そこでこの記事では、緩和ケアチームについて、またチーム内で管理栄養士が果たす役割や仕事内容について紹介します。
目次
重病患者の心身を癒やす「緩和ケアチーム」
「緩和ケアチーム」は、余命宣告を受けた患者さんを対象に治療を行うチームを指します。患者さんの多くは「緩和ケア病棟」に入院しているか、施設あるいは自宅で療養しています。
緩和ケアチームの治療対象となる患者さんに多い病気は、がん、エイズ、ALS(筋萎縮性側索硬化症)など。
緩和ケアチームの役割はQOLの維持と向上
余命宣告を受けていたり、現在では治療が困難な病気にかかったりなど、心身に対する負荷が大きい患者さんが対象となるケースが多いため、緩和ケアチームは患者さんとその家族も含めたケアをすることが役割です。それも、早い時期からサポートすることがよいとされています。
ケアの目的はQOL(クオリティ・オブ・ライフ)の維持や向上にあると定義されており、そのためには以下のケアが必要となってきます。
・身体的ケア(痛み、嘔吐、倦怠感、呼吸困難など)
・心理的ケア(落ち込み、悲しみ、悩みなど)
また、死に対する恐怖や病気との向き合い方、自己の存在意義に関する苦しみを覚えるなど、患者さんが精神的に深く内省してしまったり、思いつめてしまったりすることに対しても寄り添う必要もあります。
こうした患者さんのためにも、管理栄養士も含む緩和ケアチームは、患者さんの状態に応じ、専門的見地からそれぞれの職種が連携してサポートすることが大切です。
緩和ケアチームのメンバーは多職種で構成
管理栄養士以外で緩和ケアチームに選抜されるメンバーは、一般的に以下の職種のメンバーで構成されています。
・医師
・看護師
・薬剤師
・医療ソーシャルワーカー
・作業療法士
・理学療法士
・歯科医師
・歯科衛生士
・救急救命士
・診療放射線技師
・臨床心理士
・臨床検査技師
緩和ケアではなぜ管理栄養士が必要とされている?
「緩和ケア」の役割は患者さんやその家族のQOLの維持と改善にあることは上述したとおりですが、食べるという行為は人間が生きる喜びの基本です。
食事がきちんと食べられるのと食べられないのとでは、患者さんの心身に与える影響は大きく異なってきます。
食べる喜びを感じられることは、QOLの維持や改善と密接な関係にあるのです。
ただ、緩和ケアの対象となるような患者さんは食思(食欲)不振や味覚障害、嚥下障害などを抱えているケースも少なくなく、思い通りに食事が摂れないことで苦しんでいる人もたくさんいます。
そこで管理栄養士には「食事対応」などで患者さんの食事をサポートしたり、患者さんの全身状態の改善のために栄養管理を行ったりすることで、QOLの維持と改善をはかる役割が求められているのです。
緩和ケアに役立つ栄養管理の勉強法
「将来的に緩和ケアチームに所属したい」
「スキルアップのために緩和ケアに役立つ栄養管理を学びたい」
など、緩和ケアに関する知識とそれに伴う栄養管理の知識を学びたい管理栄養士は、各関連学会が主催する研究会に参加すれば習得の機会が得られます。
「日本緩和医療学会」・「日本死の臨床研究会」は緩和ケアの学会として代表的です。
ほかにも「日本静脈経腸栄養学会」といった栄養関係の学会、日本栄養士会の主催する研修会などでも緩和ケアに関する知識を得られます。
緩和ケアにおける管理栄養士の仕事の核は「食事対応」
ではここで、緩和ケアチームに所属する管理栄養士の具体的な仕事内容と、食事対応の注意点を紹介します。
管理栄養士は緩和ケアで何ができる?
まずは患者さんの栄養アセスメントを実施することで、栄養管理の準備を行います。栄養障害を早期発見することも栄養アセスメントを実施するねらいのひとつです。
栄養管理に関しては、症状や状態に応じて主治医に提言することや栄養管理の内容を定期的にチェックすることも必要です。
患者さんの体調や病状に合わせて経口摂取法や経腸栄養法、経静脈栄養法といった栄養投与の検討も行います。
嚥下障害のある患者さんに対しても、きざみ食や軟菜食といった食事提供の有無について、判断が必要です。
また、緩和ケアの目的が患者さんのQOL維持や向上にあることから、とくに終末期の患者さんには食べる喜びを感じてもらえるよう、楽しい食事を提供することも求められます。
緩和ケアチームの一員として他職種との連携も重要ですから、情報共有をこまめに行うことも不可欠です。
患者さんの療養場所が変更されても、緩和ケアのサポートを続ける場合は、外来や地域といった場所を通じてネットワークを機能させることも支援のカギです。
食事対応の注意点
重病を抱える患者さんの食事対応にさまざまな工夫を施し、患者さんのQOL維持と向上に努めるのが管理栄養士の役割ですが、食事対応において管理栄養士ができる工夫には以下のようなものがあります。
患者さんの嗜好に合った献立づくり
提供する期間や頻度を決めたうえで、患者さんの嗜好に合わせた献立を提供します。
食べたいタイミングで食事を提供する
決められた食事の時間以外でも、患者さんが食べたいと思ったタイミングで軽食を提供する対応です。
食事量を調整する
食事の全体量を調整し、食欲増進のためにも盛り付けを工夫します。
緩和ケアでは、食事を多量に摂取することよりも、完食してもらうことのほうが患者さんを精神的に満足させられるため、多量摂取よりも全量摂取を目指すほうがよい場合が多くあります。
食欲不振食など体調に合った食形態の提供
食欲不振がある患者さんに対しては、麺類や果物、ゼリーといった食べやすい「食欲不振食」の提供など、何かしらの工夫が必要です。また、嚥下障害がある患者さんには、嚥下評価の結果をもとにした食事や食形態を提供します。
味つけ
緩和ケアの対象となる患者さんには食事の楽しさや喜びを提供することが大切になるため、美味しく食べてもらえるような味つけを施すことも大切な食事対応です。
ただ、患者さんによっては味覚障害を抱えている人もいるため、味覚障害を考慮した味付けを提供します。
おやつの提供
食事以外の楽しみや栄養補給の目的から、おやつを提供するのもよいでしょう。ゼリーやムースであれば、嚥下障害があっても口に運べます。季節のフルーツや季節ごとの行事に合ったおやつの提供も喜ばれます。
行事食
季節の行事食を提供することは、患者さんに食べる喜びや楽しさを思い出してもらう効果が期待できるでしょう。
かみ出し食
かみ出し食とは、消化管狭窄を抱え、少量であれば水分補給ができる患者さんを対象に提供される食事で、その目的はかんで吐き出し、味や食感を楽しんでもらうために提供されます。
患者さんに合うかみ出し食も人それぞれですので、どのようなものが食べたいか、ヒアリングすることも重要です。
緩和ケアにおける食事対応の成功例(かみ出し食の提供)
こうした食事対応のなかで、かみ出し食の提供による成功事例として「日本赤十字社医療センター」が公表している例を紹介します。
かみ出し食提供の対象となったのは、60代の男性患者。この患者さんは、入院当初は点滴と濃厚流動食の摂取をいやがっていましたが、管理栄養士がかみ出し食を提案したところ「食事を口にできるとは思わなかった」と、肉・野菜・フルーツ・にゅうめんなどの食材のかみ出しを行い、食べる喜びを提供しました。
また、少量であれば飲み物も摂取できたため、家族とビールをたしなむこともあったそうです。
まとめ
緩和ケアは、患者さんのQOL維持と向上のために重要な働きを担っています。
食べることには人間の生きる喜びや生活の楽しさが詰まっているため、食事を通じて患者さんの心身をケアする管理栄養士は、緩和ケアチーム内でいなくてはならない存在です。
スキルアップして緩和ケアの分野に携わりたい人は、まずは緩和ケアにおける栄養管理の勉強から始めてみるとよいかもしれませんね。
参考文献・サイト
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