栄養士の基礎知識

保健所で働く管理栄養士(行政栄養士)の仕事内容や必要な資格を解説

保健所で働く管理栄養士(行政栄養士)の仕事内容や必要な資格を解説

「地域に貢献できる仕事がしたい」「公的な機関で専門性を活かしたい」と考える管理栄養士の方にとって、保健所で働く「行政栄養士」は魅力的な選択肢の1つでしょう。しかし、保健所は病院や福祉施設とは異なる役割を持つため、管理栄養士としての働き方や求められるスキルに不安を感じる人も多いかもしれません。

この記事では、保健所の役割や管理栄養士としての仕事内容、求められるスキル、給与の相場などについて解説します。

【この記事でわかること】
●保健所の管理栄養士は、地域の健康支援や栄養施策など多様な業務を担っている
●働くには管理栄養士の資格のほかに、自治体の公務員試験に合格する必要がある
●給与や待遇が安定しており、専門性を活かして働ける仕事

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保健所の役割

保健所の主な役割は、地域に暮らす人々の健康と公衆衛生の安全を守るために、医療機関や市町村の保健センターなどと連携し、地域全体の保健サービス体制を整えることです。また、感染症対策や災害時の健康危機管理など、広域的な保健活動の中核も担っています。
保健所は都道府県や政令指定都市、中核市などに設置されており、全国保健所長会「保健所数の推移と内訳」によると、2025年4月時点で全国に462ヵ所あります。

なお、保健所と名前が似ている施設で「保健センター」がありますが、こちらは乳幼児健診や予防接種、健康診査、母子手帳の交付など、住民が直接利用するサービスを提供する機関で、保健所とは違う施設です。

保健所で管理栄養士が働くために必要な資格

保健所で管理栄養士として働くには、まず国家資格である「管理栄養士」の資格を取得していることが前提となります。さらに、行政機関で勤務するには各自治体が実施する公務員採用試験に合格しなければなりません。
ただし、自治体によっては応募要件として年齢制限が設けられていることも多く、30~35歳前後を上限とするケースが一般的です。

また、採用試験に合格したとしても、配属先や業務内容は自治体ごとに異なります。採用枠そのものが少なく、競争率も高い傾向があるため、早めの情報収集と準備が重要になります。

関連情報:管理栄養士が公務員になるには?仕事内容や年収、試験について解説

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保健所の管理栄養士の役割と仕事内容

保健所に勤務する管理栄養士は、「行政栄養士」とも呼ばれ、法律にもとづいて地域の食と栄養を支える地方公務員です。個人や団体への栄養指導を通じて、住民一人ひとりが健康的な生活を送れるよう支援し、地域住民と直接関わる機会も多い職種になります。

厚生労働省「国の栄養施策の動向について」によると行政栄養士の配置数は年々増加しており、2022年6月1日時点で7,179人となっています。

■行政栄養士の配置数の推移(2022年6月1日時点)
行政栄養士の配置数の推移(2022年6月1日時点)

出典:厚生労働省「国の栄養施策の動向について

なお、保健所で働く管理栄養士の仕事内容は、主に下記の5つがあります。

地域組織との連携体制を強化する

保健所の管理栄養士の主な仕事は、関係機関と連携しながら地域の健康支援体制を整えることです。
例えば、市町村や関係機関と協力し、健康と栄養に関する課題・データ共有を通じて、地域の実情に応じた企画の立案や実施につなげます。このように、保健所の管理栄養士には、地域組織との調整役として多様な関係者の活動を支える役割があります。

食の視点で社会の環境整備をする

保健所の管理栄養士は、地域住民の健康づくりを支えるため、食の観点から社会環境を整える役割も担っています。給食施設や飲食店の栄養管理の支援をはじめ、地域ニーズに応じた栄養ケア体制の構築を進めるなど、幅広い取り組みを通じて健康的な食環境の推進に取り組んでいます。
主な取り組みは、次の3点です。

特定給食施設への栄養管理支援

学校や福祉施設、事業所などの給食施設を対象に、栄養管理の状況を把握・評価した上で、改善に向けた指導や支援を実施します。施設ごとに課題を整理し、管理栄養士の配置促進や指導計画の見直しへとつなげていく取り組みです。

飲食店におけるヘルシーメニュー提供の推進

地域の飲食店には、ヘルシーメニューの導入や栄養表示の活用を働きかけます。日常的に健康的な食事を選択しやすくなるよう、効果的な支援策を検討・実施します。

地域における栄養ケア拠点の整備

在宅での栄養や食生活の支援を強化するため、地域ごとのニーズに応じた栄養ケア体制の整備を進めます。大学などと連携し、地域の技術力を活かした栄養情報の発信や技術支援の基盤づくりにも力を入れています。

栄養課題の把握と施策を推進する

地域住民の健康・栄養課題を明らかにし、科学的な根拠にもとづいて施策を展開するのも、保健所の管理栄養士の重要な業務です。
具体的には、健康診査の結果などのデータを収集・分析し、国が設定した健康目標との比較を通じて、地域特有の課題を抽出します。その上で、特定の栄養素の不足や生活習慣の偏りといった優先課題を明確にし、地域の実情に応じた指導・支援を計画します。
また、これらの施策をPDCAサイクルにもとづいて継続的に改善し、より効果的な健康施策へとつなげるのも重要な業務のひとつです。

子どもや高齢者の健康維持・向上を目指した施策を展開する

「子どもの豊かな発育」や「高齢者の身体・生活機能の維持」を目指した取り組みも、保健所の管理栄養士が担う大切な仕事です。例えば、乳幼児健診データを集計・解析し、肥満や栄養不良などの課題を洗い出したり、個別支援が必要な子どもを特定したりします。児童や生徒に関しても、肥満ややせ傾向といった課題が見られる場合は、教育委員会や学校、家庭と連携して施策を展開する大切な業務です。

一方、高齢者に対しては、低栄養傾向などの課題を踏まえて背景を分析し、改善に向けた効果的な支援を行います。
保健所の管理栄養士は、地域包括ケア体制全体の中で、さまざまな関係者と連携し、栄養と食生活の両面から支援をしていくことが求められます。

生活習慣病の予防と重症化予防に取り組む

保健所の管理栄養士は、生活習慣病の発症を防ぐとともに、重症化を抑えるための施策を進める業務にも関わります。特定健診や特定保健指導の結果に加え、レセプトデータ、介護保険データ、そのほかの統計資料などを活用し、地域における健康課題を明らかにします。その上で、生活習慣病のリスクが高い人々を対象に、重点的な指導や啓発活動を実施するのが役割です。
こうした取り組みにより健康格差の縮小を図り、糖尿病や高血圧などの生活習慣病の重症化を防ぐことで、将来的な医療費の削減につなげます。

関連情報:行政機関で働く栄養士・管理栄養士のお仕事とは?

保健所の管理栄養士に求められるスキル

保健所の管理栄養士には、栄養や食事に関する専門知識に加えて、広い視野と高い分析力が求められます。個別の栄養相談や指導に対応するだけでなく、統計データをもとに地域全体の健康課題を把握し、効果的な支援策を考える力が必要です。
厚生労働省「国の栄養施策の動向について」では、行政栄養士に求められるスキルについて下記のように示しています。

<行政栄養士に求められるスキル>

●今後を見据え、課題を総合的に分析し抽出するスキル
●リーダーシップを発揮し他部署等に積極的に相談・提案するスキル
●施策を立案し、必要な予算を要求・確保するスキル
●PDCAにもとづき施策を着実に遂行し成果を得るためのマネジメントスキル
●得られた成果を効果的に見える化し、更なる発展につなげるスキル

出典:厚生労働省「国の栄養施策の動向について

また、保健所の管理栄養士は、幅広い年代の住民や関係者と接するため、相手に配慮した柔軟な対応力や、わかりやすく説明する伝達力も重要です。信頼関係を築くための丁寧なコミュニケーションも必要なスキルになります。

保健所に勤務する管理栄養士の給与はどのくらい?

保健所で働く管理栄養士の年収は、約450万~600万円とされています。
厚生労働省の「令和6年賃金構造基本統計調査」によると、栄養士全体の平均月収は約25.8万円で、年収に換算すると約350万~400万円です。これと比較しても、保健所の管理栄養士は定期的な昇給や賞与に加え、各種手当も充実していることから、栄養士全体の平均年収を上回る傾向にあります。これはほかの職場と比較しても高めの水準で、地方公務員として安定した待遇を受けられるといえます。
保健所とほかの職場との年収相場を比較すると、下記のとおりです。

■管理栄養士の年収

職場 年収の相場
保健所 約450万~600万円
栄養士全体※1 約350万~400万円
医療(病院・クリニックなど)※2 約360万円
介護・福祉(介護や障がい福祉施設など)※2 約260万円
教育(保育園や学校など)※2 約300万円

※1 参考:厚生労働省「令和6年賃金構造基本統計調査
※2 参考:「栄養士のお仕事

関連情報:管理栄養士の就職先は?活躍できる場所や仕事内容、選び方を解説

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保健所で働く管理栄養士は狭き門でもチャレンジしがいのある仕事

保健所で働く管理栄養士は、地域に暮らす人々の健康を守るために欠かせない存在です。個別の栄養指導に加え、食環境の整備、生活習慣病の予防、子どもや高齢者への支援など、業務は多岐にわたります。採用枠が限られているため競争率は高くなりますが、その分だけ挑戦する価値のある仕事といえるでしょう。

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よくある質問

保健所で働く管理栄養士はどのような仕事を行っていますか?

保健所で管理栄養士が行う仕事内容は、「地域組織との連携体制の強化」「食の視点で社会の環境整備」「栄養課題の把握と施策の推進」「子どもや高齢者の健康維持・向上を目指した施策の展開」「生活習慣病の予防と重症化予防への取り組み」などです。保健所の管理栄養士は、地域の食と健康を支える、幅広い業務を担っています。

保健所で働く管理栄養士に必要な資格は?

保健所で管理栄養士として働くには、まず国家資格である「管理栄養士」の資格を取得していることが前提となります。さらに、行政機関で勤務するには各自治体が実施する公務員採用試験に合格しなければなりません。

保健所で働く管理栄養士の給与はどのくらい?

保健所で働く管理栄養士の年収は、おおよそ450万~600万円とされています。
厚生労働省の「令和6年賃金構造基本統計調査」によると、栄養士全体の平均月収は約25.8万円で、年収に換算すると約350万~400万円です。これと比較しても、保健所の管理栄養士は定期的な昇給や賞与に加え、各種手当も充実していることから、栄養士全体の平均年収を上回る傾向にあります。

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