栄養教諭や学校栄養職員、委託給食会社の栄養士は、学校に通う子ども達の栄養と食のサポートに日々向き合っていることでしょう。
なかでも、学校現場における食育の実践や推進は、近年ますます重視されるようになってきました。
子ども達の食育と向き合う当事者にとって、食育活動は業務上の課題となっているかもしれません。
そこで政府は、2014年から学校における食育の実践と成果の検証をはかるべく「スーパー食育スクール事業」を始めました。
今回は、そんな「スーパー食育スクール事業」の概要や実施校における事例を紹介します。学校などで働く栄養士・管理栄養士は、ぜひ参考にしてくださいね。
目次
「スーパー食育スクール事業」の目的は食育の推進と活発化
スーパー食育スクール事業は、2014年に文部科学省の管轄のもとスタートしました。
事業の内容は、学校における食育の活動や取り組みを推進するべく、政府に指定された学校(「実施校」)が「食育モデル実践プログラム」を設計し、プログラムの成果も含めて事例の報告をすること。
食育に関する取り組みの実証資料を集め、成果を検証し、その結果を共有・普及することで、食育を活発化するねらいがあります。
スーパー食育スクール事業の「実施校」は文科省指定
スーパー食育スクール事業の仕組みは、まず文部科学省が実施校を決定することから始まり、場合によっては農林水産省や厚生労働省とも連携します。
学校を指定する際は、教育委員会・国立大学法人・学校法人といった管理機関に連絡が入る流れです。
スーパー食育スクールに選ばれた実施校は、主に以下の方法や役割を以て食育モデル実践プログラムを推進していきます。
・栄養教諭を中心とした外部の専門家の活用と連携
・学校給食の充実(地産地消など)
・学校外の活動
・具体的な目標の設定
・科学的な成果のデータ分析
・食育による効果を多角的に実証
実施校はそのプログラムの内容に応じて、
・農林・保健部局
・生産者
・関係団体
・企業
・大学・研究機関
以上の期間や団体と協力する必要があり、文部科学省からの指導や助言、評価も受けていく形になります。
スーパー食育スクール事業に期待される効果
文部科学省は、スーパー食育スクール事業を実施することで、子どもたちの生活習慣や心身に対し、このような効果が見られることを期待しています。
・食事がいかに重要かを理解できる
・生活習慣の改善
・食品選択能力の習得
・食に対して感謝をもてる
・社会性を習得できる
・給食が充実する
・食文化に対する理解
福島県と山梨県の小中学校での事例紹介
それでは、スーパー食育スクールとして選ばれた学校が2016年度に行った事例を2つ紹介します。
【事例①】福島県・三春町立三春中学校
福島県の三春中学校では「食とスポーツ」というテーマのもと、「震災後の食習慣・運動習慣の変化と食育を通した生活習慣の改善」を掲げた取り組みが行われました。
プログラムは、福島県内の児童の運動不足による体力・運動能力の低下傾向や肥満傾向児・痩身傾向児の出現率の増加を受けて発足されています。
そこで、三春中学校は生徒の食生活の実態や発育に関する調査を行い、生徒一人ひとりの食に対する課題や適切な運動量を提示する取り組みを行いました。調査結果をもとにした授業も実施しています。
ほかにも、保健体育の授業内での身体運動プログラムの実施を通じ、消費エネルギー量の目安を把握したり、体力向上をはかったりする取り組みもしました。
このような取り組みの結果、肥満傾向児(男子)の出現率が16.9%から11.1%に減少したり、痩身傾向児(女子)の出現率も12.3%から9.3%に減少したりなど、一定の成果が見られています。
【事例②】山梨県・甲州私立塩山北小学校
山梨県の塩山北小学校では「食と学力」をテーマに「意欲的な学習集団を育成する効果的な『食育プログラム』の開発」に取り組みました。
「食育プログラム」を通じて児童の生活習慣と学習意欲、協働意識を磨くことを目的に、塩山北小学校は「自産自消」を重視することにしました。
野菜の栽培や栽培した野菜の調理と実食、お弁当づくりなど、楽しみながらできる食の体験が、塩山北小学校で実施された「自産自消」です。
また、「アクティブ・ラーニング」の視点による研究授業や日曜参観内での食育授業、「親子料理教室」、JAや農家による講習会など、児童が積極的・主体的に食に関われるような食育プログラムも積極的に行いました。
その結果、「学級生活満足群の所属率【全国・対象校との比較】」というアンケートでは、全国の数値が40%だったのに対し、塩山北小学校は80.5%と、全国平均値を上回る数値を記録しています。
5年生を対象にした「学校生活意欲(学習意欲に関する質問項目)」というアンケートでも、「よい成績をとったり勉強ができるように努力している」「授業中に質問したり発言したりするのが好きだ」などの項目が全国平均値を上回っていました。
◆参考:文部科学省「山梨県教育委員会:甲州市立塩山北小学校」
このように、スーパー食育スクール事業に取り組んだ結果、一定の成果を出した実施校が存在しています。
スーパー食育スクール事業は本当に成果が出ている?
では、スーパー食育スクール事業による成果はどのように評価・分析されているのでしょうか?
2014年・2015年の実施事例をもとに、日本女子大学の大学教授や「国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所」所属の職員らがまとめた『スーパー食育スクール実施校の事業内容』という論文では、文部科学省による「スーパー食育スクール事業結果報告書」を元に、スーパー食育スクール事業の成果分析を行っています。
論文によると、結果報告書の作成・記入に応じた総数427件のうち、297件(70%)が「成果あり」・27件(6%)が「成果なし」という結果を報告しています(うち103件(24%)は成果の有無の記載がありません)。
成果を実感している割合が7割を超えていることから、スーパー食育スクール事業には一定の教育的効果があるようです。
ほかにも、小学校で6件、中学校・高校で5件の肥満傾向児の改善も報告されていたり、睡眠時間・排便習慣・生活リズムを含む生活習慣の改善も確認されました。
こうした結果を受けて、論文では今後も食育教科の充実や授業時間の確保が必要との見方を示しています。
スーパー食育スクール事業成功のキーパーソンは栄養教諭
スーパー食育スクール事業の取り組みが一定の成果を見せていることは判明しましたが、今後もスーパー食育スクール事業を推進し充実していくには、子どもたちの発達段階を踏まえた食育の実践が必要といわれています。
また、「前学年や前学校段階での既習事項」も参考にしたうえで、食育を継続的に行っていくことも重要です。
そのために、今後は栄養教諭が率先して学校における食育の全体計画の立案や実施を取り仕切っていくことがさらに重視されていくようです。
栄養教諭をはじめとする食育指導者が専門性や意識を高め、地域や家庭など学校外のさまざまな関係者に連携を求めることも必要とされています。
以上のことから、スーパー食育スクールの推進や成果を出すキーパーソンとして、栄養教諭が重要な役割を担っていることがわかります。
◆参考:「スーパー食育スクール実施校の事業内容」土方 直美、中岡加奈絵、五関-曽根正江、髙田 和子、金子佳代子『栄養学雑誌 Vol.75』(2017)
まとめ
スーパー食育スクール事業成功のカギを握るのは主に栄養教諭や学校栄養職員ですが、給食を通じた取り組みも実施している学校もあるため、委託給食会社の栄養士など、学校栄養に関係する人たちすべてが、大切な役割を担っています。
スーパー食育スクール事業は始まってから日も浅い取り組みですが、すでに一定の成果も出ていることから今後も食育分野において重視されていくでしょう。
学校栄養の関係者たちはいつ実施校に選ばれてもいいよう、日頃から食育に対する意識や知識を高めておくことをオススメします。
参考文献・サイト
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