「フレイル」は、高齢者の心と体の働きが加齢とともに衰えていく状態のこと。食事にも大きく影響し、味覚障害や嚥下障害を引き起こすこともあり、栄養面からの予防も重視されています。
高齢者施設や病院、地域栄養ケアステーション、訪問栄養などで活躍中の栄養士・管理栄養士には、高齢者の健康に関わる身としてフレイル予防に積極的に取り組む必要性を感じている人もいるかもしれません。
この記事では、フレイルを解説するとともに、栄養士・管理栄養士に期待される役割や栄養士・管理栄養士だからこそできるフレイル予防の取り組みなどを紹介します。
目次
「フレイル」は健康体と要介護状態の中間
「フレイル」は、加齢を原因に高齢者の心身の活力や運動機能が徐々に低下していく状態のことです。
フレイルの語源は英語の「frailty(虚弱)」ですが、「虚弱」という言葉にはマイナスイメージが強いということが懸念となり、言葉の印象を緩和するために「フレイル」で名称が統一されました。
フレイルの診断には、世界共通の基準が設けられていません(2019年9月時点)。
とはいえ、アメリカのリンダ・フリードが提唱しているフレイルの評価基準は、現在もっともよく使われている基準として知られています。
①握力低下(力が弱くなる)
②活動量低下
③歩く速度が遅くなる(減弱化する)
④疲労感
⑤体重減少
このうち、上記の5項目のうち2項目が当てはまる人が、フレイルの前段階である「前フレイル(プレフレイル)」です。
フレイルに該当する人は、5項目中3項目に当てはまります。
フレイルは適切な健康に戻れる可能性もある
フレイルは、健康と要介護状態の中間に位置する状態とされており、そのため健康体に戻れる可能性(可逆性)もあります。
手遅れにならないためには、心身の「ささいな衰え」に気づき、早めに適切な対処や処置を行うことが肝心です。
フレイルの兆候を見逃してしまうと、要介護状態になりかねません。
早期の段階で対処をすることにより、健康状態の維持や改善ができる可能性が上がります。
フレイルは社会性・メンタル・身体の順に進行する
また、フレイルの進行には特徴があり、社会性→メンタル面→身体の順番に衰えていくことが指摘されています。
ソーシャルフレイル
「ソーシャルフレイル(社会性の衰え)」とは、社会との接点が減っていき、孤立してしまう状態のことです。
友だちや知り合いとの付き合いが減ることや引きこもり、うつ傾向、孤食が該当し、経済的な問題が絡んでくることもあります。
メンタル・コグニティブフレイル
「メンタル・コグニティブフレイル(心や認知的な衰え)」とは、メンタル面における衰えです。
具体的には、倦怠感や意欲の低下などが含まれます。
フィジカルフレイル(身体的な衰え)
「フィジカルフレイル(身体的な衰え)」は、日常生活の動作に関わる運動能力が低下することです。
歩行や物をつかむことなどに始まり、食べること、飲み込むことの運動機能も衰えていくため、進行すると低栄養状態を引き起こすリスクも含んでいます。
以上の3つの段階を経て進行するフレイルを放置していると、最終的には「重度フレイル期」になり、要介護状態になりかねません。
嚥下障害、咀嚼機能不全、経口摂取困難、運動障害、栄養障害といった病気を引き起こす可能性も高くなります。
栄養面の問題もフレイルの要因になる
ところで、フレイルには栄養面の問題も密接に関わっています。
食事を飲み込みにくい・食欲不振・偏った食事などが挙げられ、こうした問題が低栄養状態を引き起こす原因にもなり得ます。
フレイルを予防したり改善したりするには、栄養面に関する問題を解決しておくことは非常に重要です。
フレイルと密接な関係にある「サルコペニア」とは?
体の衰えにより咀嚼や飲み込みが困難になると、低栄養状態から「サルコペニア(筋肉減弱症)」を起こすことも。
サルコペニアは加齢による筋肉量や身体機能の低下(とくに運動能力)を指し、フレイルの要因の一部です。
また、サルコペニアを含む「フレイル・サイクル」という概念があります。
低栄養や体重減少がサルコペニアを引き起こし、サルコペニアが高齢者のエネルギー消費低下などの身体機能不全を招き、それによりさらに低栄養がさらに進行する……といった悪循環が、フレイル・サイクル。
つまり、サルコペニアとフレイルとは密接な関係であり、サルコペニアを放置すると筋力低下や腰痛、病気にかかる回数の増加といった事態も起こり得ます。
場合によっては、要介護状態の引き金となってしまう可能性すら考えられるのです。
フレイル予防のカギは栄養・運動・社会参加
このように、フレイルやそれにともなうサルコペニアなどを放置すると、高齢者の心身の機能はどんどん衰えていき、やがて寝たきりといった重篤な状態につながりかねません。
そのため、
・栄養(栄養バランスの良い食事/口腔ケア)
・運動(軽い運動/筋トレ)
・社会参加(友達付き合いなど)
の3つの柱を維持し、改善し、継続することがフレイルを予防するカギです。
フレイル予防には食・栄養面からのサポートが重要
そもそも、高齢者にとっての食事にはどのような意味合いがあるのでしょうか。
ひとつには、単なる栄養補給という枠を超えた「生きがい」や「楽しみ」を感じるための行為という意味合いがあります。
「生きがい」や「楽しみ」という意味ももつ食事には、買い物や料理といった「生活活動能力」が関わってくるため、こうした能力を維持することも、高齢者が元気に食事を摂る源となります。
また、誰かとコミュニケーションを取る機会や会話のある生活は、高齢者の心の健康維持(メンタル面におけるフレイル予防)にとって大切です。
「孤食」はフレイルに影響を与えるとされており、「同居者がいるのに孤食」である高齢者には「同居者と共食」している人と比べて、約4倍のうつ傾向が見られることから、食事を誰かと取ることは心のフレイル予防になります。
◆参考:「飯島勝矢監修 東京大学高齢社会総合研究機関 フレイル予防ハンドブック 2016」
ちなみに、50歳~65歳ぐらいの人に対しては過栄養やメタボ予防に関する栄養指導が推奨されますが、65歳以降になると栄養指導のメインが低栄養予防にシフトしていくのも高齢者の栄養サポートの特徴です。
高齢者の食と栄養を支えるには「オーラルフレイル」にも注意を
高齢者の栄養機能や食べる力が低下する状態を「オーラルフレイル」と呼びますが、これは口の機能の衰えのこと。
オーラルフレイルの特徴は以下のとおりです。
噛めない
噛む力が衰えることは、「お口のサルコペニア」です。
歯の数の減少や入れ歯などが原因で咀嚼が難しくなると、柔らかいものしか食べられなくなります。
すると噛む機能も低下してしまい、口腔内の機能の衰えが加速してしまうという悪循環につながります。
むせる
お茶や汁物を飲んだときにむせてしまうことは、飲み込む力が衰え始めていることのサインです。
むせのつらさは食欲不振にもつながり、低栄養を引き起こしかねません。
ひどい場合には誤嚥性肺炎といった重病の引き金になることも考えられます。
滑舌が悪くなる
滑舌が悪くなることは、口の筋力と関係しています。筋肉の働きの低下はフレイルの一種ですので、滑舌の悪化もオーラルフレイルです。対処方法としては、口の体操が挙げられます。
オーラルフレイルが進行すると、十分な食事量が摂れなくなるといった問題も起こり、結果的に低栄養につながる可能性が高くなります。
放置していると要介護状態に進行しかねないため、栄養や食の面からフレイルの予防をサポートする際は、オーラルフレイルの兆候にも気づけることがポイントです。
国も取り組むフレイル予防の推進
フレイルの予防ならびに低栄養状態の予防は、国が掲げる健康問題としても注目されています。
厚生労働省は「高齢者の低栄養防止・重症化予防等の推進について」という資料を発表しており、そのなかでさまざまな取り組みを推進しています。
◆参考:厚生労働省「高齢者の低栄養防止・重症化予防等の推進について」
たとえば、医療や介護の領域や多職種で連携し合うことで総合的なフレイル対策を検討したり、フレイルの概念や重要性を普及していったりすることが挙げられます。
フレイル状態にある高齢者に適切なアセスメントを行うこと、専門職が効果的かつ効率的に介入し支援すること、地域包括ケアを推進することも必要とされています。
【神奈川県大和市の事例】栄養指導により高齢者の約5割が体重増加
フレイル予防は国も重視しているほどに推進されるべき取り組みですが、フレイル予防に関して栄養士・管理栄養士は具体的にどのようなことができるのでしょうか?
厚労省による「高齢者の低栄養防止・重症化予防等の推進について」のなかでは、事業例のひとつとして、神奈川県大和市で行われた管理栄養士による在宅栄養訪問指導(「低栄養改善事業」)が紹介されています。
◆参考:厚生労働省「高齢者の低栄養防止・重症化予防等の推進について」
取り組みの目的は、低栄養状態の改善と重症化の予防です。
国民健康保険制度あるいは後期高齢者医療制度に加入している高齢者で、低栄養状態やそのおそれがある高齢者を対象に、2013年~2015年まで実施されました。
具体的な栄養指導の対象となったのは、BMI18.5未満、半年以内に2~3kg以上の体重減少がみられた高齢者109名。
結果的を見ると、2013年~2014年の間で約5割の指導対象者に1kg以上の体重増加が確認されました。
低栄養改善事業を実施していない地域に比べると、約3倍もの低栄養改善効果があったことも報告されています。
フレイルの予防には、低栄養状態やその予備軍といえる早期の状態からの支援がポイントとなります。
このように、地域の栄養士・管理栄養士などが主体となって高齢者の低栄養状態の改善や予防の施策を積極的に推進することは、フレイル予防において非常に有効な取り組みと考えられるでしょう。
フレイル予防で栄養士が気をつけること
フレイル予防のサポートの際は、栄養士・管理栄養士は以下の点に注意し指導することがポイントです。
①エネルギー摂取
②タンパク質の摂取
エネルギー摂取
エネルギーは人間の活動の基本となるため、エネルギーの適量摂取は低栄養状態を回避するカギとなります。
十分なエネルギーが摂れているかは、BMIからチェックできます。
栄養士・管理栄養士は、支援対象者のBMIをこまめにチェックして、低栄養状態に陥っていないかを確認しましょう。
タンパク質の摂取
肉、魚、大豆製品、卵などに含まれるタンパク質は、高齢者にとって非常に重要な栄養素。
体の資本となるエネルギーに変換されるだけではなく、筋肉の合成にもつながる栄養素です。
高齢者であっても、タンパク質をきちんと摂っていれば、筋肉量は増えることがわかっていることから、栄養士・管理栄養士はタンパク質が摂りやすいメニューなどを提案するようにしましょう。
また、ビタミンDがたくさん含まれている魚は、カルシウム摂取にも役立ちます。カルシウムの吸収は骨の代謝とも関わるため、ぜひ魚の摂取も積極的にすすめるようにしてください。
まとめ
心身の状態が衰えていくフレイルを予防するには、栄養面での改善が不可欠です。
栄養士・管理栄養士が果たす役割や存在意義はとても大きいといえます。
高齢者に関わる仕事をしているすべての栄養士・管理栄養士は、フレイル予防やそれに関連する低栄養状態の改善などについて、一度くわしく勉強してみてはいかがでしょうか。
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