保育所や小学校など、子ども達の成長と発達をサポートする現場で働く栄養士にとって、「食育」への理解や取り組みは欠かせません。
とはいえ、なんとなく日々の業務をこなしているうちに食育のそもそもの意味や役割を見失ったり、どういったことを念頭に食育を行うことがよいのか、わからなくなったりすることはありませんか?
そこで、栄養士にとって「そもそも食育とは?」という部分から確認し、食育の定義をおさらいしてみましょう。
保育所や小学校をはじめとした学校で食育を行う際に参考になる資料や考え方、実践のポイントもあわせて紹介します。
目次
食育はなぜ大事?食育基本法を確認しよう
2005年に「食育基本法」が制定されたことをきっかけに、栄養士は食育の推進や普及に努めることが求められ始めました。
食育基本法は、生活習慣の乱れや不規則な食事、食の安全、肥満ややせの問題など、昨今の日本を取り巻くさまざまな食に関する問題を背景に制定された法律です。
内容としては、食をめぐる環境や状況が変化しているなかで、国民がいま一度「食」に関して真剣に考える必要性や食の生産と消費に関する問題の改善、食料自給率の向上などをうったえています。
・安心で安全な食材を選ぶ力の育成
・食に対する情報リテラシーの改善
・適切な食生活により心身の健康の増進
食育基本法では、これらの課題の解決や実現を掲げています。
食育推進に関わる人は栄養士だけではなく、家庭・学校・保育所・地域など多岐にわたっていることから、食育推進のためには、関係機関や関係者同士が連携することが大切です。
食育推進のリーダーである栄養士
食育推進に力を入れるべく制定された「食育基本法」ですが、栄養士が果たすべき役割はなんでしょうか?
「第一章 総則」の第五条と「第三章 基本的施策」の第二十条に、そのヒントが記載されています。
(子どもの食育における保護者、教育関係者等の役割)
(中略)子どもの教育、保育等を行う者にあっては、教育、保育等における食育の重要性を十分自覚し、積極的に子どもの食育の推進に関する活動に取り組むこととなるよう、行われなければならない。
◆引用元:食育基本法 「第一章 総則:第五条」
(学校、保育所等における食育の推進)
国及び地方公共団体は、学校、保育所等において魅力ある食育の推進に関する活動を効果的に促進することにより子どもの健全な食生活の実現及び健全な心身の成長が図られるよう、学校、保育所等における食育の推進のための指針の作成に関する支援、食育の指導にふさわしい教職員の設置及び指導的立場にある者の食育の推進において果たすべき役割についての意識の啓発その他の食育に関する指導体制の整備、学校、保育所等又は地域の特色を生かした学校給食等の実施、教育の一環として行われる農場等における実習、食品の調理、食品廃棄物の再生利用等様々な体験活動を通じた子どもの食に関する理解の促進、過度の痩身又は肥満の心身の健康に及ぼす影響等についての知識の啓発その他必要な施策を講ずるものとする。
◆引用元:食育基本法 「第三章 総則:第二十条」
要するに、保育所や学校現場など、子ども達を対象に食育を行う必要がある施設では、栄養士も保育者や教育者の一員として、責任を持って食育活動を推し進めることが求められているのです。
こうした条文から、栄養教諭を筆頭に、学校栄養職員や保育所の栄養士・管理栄養士たちは、いわば食育のリーダー的な立場を引き受ける役割を担っていることがわかります。
ちなみに「食育の指導にふさわしい教職員の設置及び指導的立場にある者」の配置や整備を学校教育現場に照合すると、栄養教諭の存在が浮かび上がってきますね。
保育所における食育は「保育の内容の一環」
保育の現場で、食育は非常に重視されていることは広く知れ渡っていることかもしれません。
ここからは、保育所における食育の目的や定義、そして実践のポイントを解説しましょう。
厚生労働省による「保育所保育指針解説」では、食育は「保育の内容の一環」として定義されています。
規則正しい食生活や食習慣、正しい食材の選び方など、子ども達には「食を営む力」の育成が必要です。
そのための基礎をサポートすることが、保育所における食育の役割です。
こうした施策の実現に向けて、厚生労働省は「『楽しく食べる子どもに~保育所における食育に関する指針~』(概要)」という資料で、食育の観点から見た理想の子どもの姿をこのように提案しています。
①お腹がすくリズムのもてる子ども
②食べたいもの、好きなものが増える子ども
③一緒に食べたい人がいる子ども
④食事づくり、準備にかかわる子ども
⑤食べものを話題にする子ども
◆参考:厚生労働省「『楽しく食べる子どもに~保育所における食育に関する指針~』 (概要) 」
また、保育所における食育では、家庭や地域社会との連携も重要です。
栄養士だけではなく、施設長・保育士・調理師など、それぞれ専門性をもった職種同士でスキルを活かし、保育所一丸となって食育に取り組むことが推奨されています。
保育所の食育では「ねらい」の設定が不可欠
保育所における食育では、「ねらい」の設定が欠かせません。ねらいは、食育の目標を具体的にしたもので、子ども一人ひとりの発達に合った食行動や生活力に応じて設定されます。
食育のねらいを実現していくには、「食育計画」の作成も必要です。
食育計画を作る際のポイントは、
・子どもの発達段階に応じていること
・子ども達が習慣化できるような内容になっていること
・柔軟かつ発展性のある内容であること
・どの年齢の子どもに対しても一貫性があること
保育所における食育は、食育それ自体が独立しているというより「保育」のなかの一環であると位置づけられています(「保育所保育指針解説」より)。
そのため、食事の時間援助と保育活動の援助は連動していたり、食育が保育の一環になっていたりすることが、保育所での食育の理想です。
栄養士や保育士、調理師など、食育計画に携わる職員は保育と食育が切り離されないよう、食育計画を実践していく必要があります。
また、保育所と家庭が協力・連携することも、食育計画の実践においてポイントとなる部分です。
家庭との方針のすり合わせや情報共有がきっかけで、食育計画上の問題点や課題が浮かびあがることもあります。
栄養士をはじめ、食育に関わる人たちは家庭内における育児方針などをすり合わせたり、子どもの状況をこまめに共有することを心がけましょう。
食育計画の立て方!コツは発達の特徴を踏まえること
食育計画の例として、2歳児のパターンを紹介します。
まず、栄養士は園児の年齢や月齢にもとづく発達や成長を把握しておくことがポイントです。
今回の例でいえば、2歳児の発達特徴にはこのようなものがあります。
・歩行が安定する
・興味や関心が強くなっていく
・遊び食べを始める
・好き嫌いが激しくなる
・食欲にムラがある
このような発達特徴を踏まえ、ねらいや活動内容、発達目安といった項目を盛り込んだ食育計画表を作っていきましょう。
1年の年間計画を作る際は、1年を3ヶ月に区分けして作成することがオススメです(4・5・6月/7・8・9月/10・11・12月/1・2・3月)。
たとえば、2歳児の4・5・6月までの食育計画では、このようなねらいや活動、発達目安を設定できます。
●ねらい
・食事・間食に慣れる
●活動
・30分以内の食事
・「いただきます・ごちそうさま」の徹底
・給食に慣れる
・食べる場所と遊ぶ場所の区別を教える
・イスに座って食べる習慣をもたせる
●発達目安
・落ち着いていられない
・手先の運動が未熟
・「自分でやる」という主張が強くなる
◆参考:『保育者のための食育サポートブック』(ひかりのくに,2010年,高橋美保)
園児の年齢や月齢の発達をベースに、3ヶ月ごとのねらいや活動内容を定めることが大切です。
家庭ともこまめに連携して、園と保護者で協力しながら、子ども達の成長を見守っていきましょう。
2019年「保育所保育指針」が改定!食育の項目は変わった?
ところで、保育所保育指針は2019年4月1日に改定されました。保育所保育指針の改定はこれまでにも数回あり、今回で4回目です。
最新版では、食育に関する項目の改定もあり、「第3章 健康及び安全」という章が該当しています。これは、子どもの成長とそれをめぐる環境の変化、子どもの成長や発達に関する研究・調査などがベースに作られている章です。
食育と関係する領域では、アレルギー疾患をもつ子どもの保育で発生しやすい事故例と事故防止のための取り組みが追記されました。
アレルギー疾患のある子どもに対する食対応については、以下より確認できます。
特に食物アレルギー対応は日々の食事管理が必要である。また、アレルギーの原因となる食物を摂取すると重篤な症状に至ることもあるため、生活管理指導表が提出された場合、それに基づいた対応について、必ず施設長、調理員や栄養士等の専門職、保育士等が保護者と面談を行い、子どもの現状を把握し、相互の共通理解及び連携を図る。特に看護師、栄養士等の専門職がいる場合、専門性を生かした対応の充実を図らなくてはならない。
◆引用元:厚生労働省「保育所保育指針解説」
また、食育推進に関する項目や感染症対策、災害時の対応に関する項目にも、加筆修正が施されています。
保育所での食育に関する指針や重視すべきポイント、取り組みが推奨されることに関しては、今後も社会的な状況や食をめぐる環境の変化などによって、ブラッシュアップされていく可能性があります。
保育所で勤務する栄養士さんたちは、引き続き文部科学省からの発表をチェックするようにしてくださいね。
学校の食育では栄養教諭の存在が重要
一方、小学校をはじめとする学校教育機関における食育の定義や実践のポイントはどうなっているのでしょうか。
学校における食育の目標や役割については、文部科学省が発表している「食に関する指導の手引 第一章」が解説しています。
保育所で実施される食育との違いでもっともわかりやすい部分は、食育を推進する中心役が栄養教諭である点です。
「学校教育法」にもとづき、栄養教諭の配置は幼稚園でも認められますが、栄養教諭の職場=小学校をはじめとした学校というイメージの方が強いかもしれませんね。
学校での食育は、主に栄養教諭による授業や課外活動などを通じて実践されます。
とはいえ、実践成功のカギは栄養教諭ひとりの頑張りではなく、すべての教職員がきちんと連携・協力し合うことにあります。
家庭科をはじめ、食育と関連性が強い教科だけではない教科の授業でも食育の時間を設けるなど、学校における食育活動は多用な場面で展開されることが必要です。
食育の指導を継続的に行い、かつ児童の成長に効果的に寄与するには、栄養教諭の推進力と全教職員による連携が重要なのです。
学校での食育を通じて子どもが鍛えるべき力
学校における食育の考え方を確認するには、文部科学省による「食に関する指導の手引」という資料が参考になります。
文部科学省は学校での食育推進を通して、子ども達の資質や能力を育成するために、「食に関する指導の目標」を定めました。
「食に関する指導の目標」では、以下の3つの力の育成が掲げられています。
①知識・技能
食育を通して、食事の重要性・栄養バランスについて正しい知識を得ることを目指します。食文化への理解も深めることで、食生活を健康かつ健全に送れる知識や技能の習得が目標です。
②思考力・判断力・表現力
食に関する正しい知識や情報を見極める力を養い、食生活をキチンと管理したり、正しい食の判断ができたりするようになります。
③学びに向かう力・人間性
食料品の生産者など、食に関わる人達に対する感謝の心を育成することが目標です。
健康な食生活を実現できる主体性や食事を通して健全な人間関係を構築するなど、人間性の形成に関わる能力も育てます。
以上の力を育むには、「食育の視点」を押さえることも欠かせません。
①食事の重要性
…食事の重要性・喜び・楽しさの理解を促す
②心身の健康
…心身の成長と健康のための栄養と食事の知識を身につけ、管理能力を育てる
③食品を選択する能力
…品質や安全性を見極めたうえで食品を選べる力の養成
④感謝の心
…食品を大事にすることや食に関わる人たちへの感謝の心を育てる
⑤社会性
…食事のマナーを身につけ、食事を通して健全な人間関係を作ることを学ぶ
⑥食文化
…地産品や地域の食文化、歴史などを理解し、尊重する心を育成する
このような食育の視点も加味しつつ、食に関する指導の目標を達成することが、学校における食育に求められています。
栄養教諭の役割は食を通じた指導・管理
少し前に書いたように、学校での食育は栄養教諭がリーダーとなって推進していくものです。
栄養教諭の取得制度は、2005年4月に開始されました。
配置に関する条文は「学校教育法」に記載されており、その中で栄養教諭は「児童の栄養に関する指導及び管理をつかさどる」者として規定されています。
つまり、学校における食の指導を充実させたり、児童に正しい食生活の習慣を教えたりする役割を担う存在が、栄養教諭というわけです。
栄養教諭が行うべき指導や管理に関しては、文部科学省の「栄養教諭制度の創設に係る学校教育法等の一部を改正する法律等の施行について」という文書で、以下のように定義されています。
栄養に関する指導及び管理のうち、指導には、1児童生徒に対する栄養に関する個別的な相談指導や、2学級担任、教科担任等と連携して関連教科や特別活動等において食に関する指導を行うこと、3食に関する指導に係る全体的な計画の策定等への参画などが含まれること。また、管理については、1学校給食を教材として活用することを前提とした給食管理、2児童生徒の栄養状態等の把握、3食に関する社会的問題等に関する情報の把握などが含まれること。
◆引用元:文部科学省「栄養教諭制度の創設に係る学校教育法等の一部を改正する法律等の施行について(通知)」
もう少しわかりやすくまとめると、このように区分できます。
【指導】
①児童生徒に対する栄養に関する個別的な相談指導
②学級担任、教科担任等と連携して関連教科や特別活動等において食に関する指導を行う
③食に関する指導に係る全体的な計画の策定等への参画
【管理】
①学校給食を教材として活用することを前提とした給食管理
②児童生徒の栄養状態等の把握
③食に関する社会的問題等に関する情報の把握
確かに栄養教諭には学校における食育推進のリーダーになることが期待されてはいますが、食育推進を本当に成功させるには、校内の職員以外にも、地域や家庭も巻き込むことが秘訣となります。
学級園での野菜づくりといった課外活動などを通じて地域の農家と協働したり、地域住民と交流をしたり、家庭とも連携を取り合ったりなどの活動がその例です。
つまり、児童生徒の健康と成長に、大人たちみんなで関わっていくことが、食育推進成功のカギといえるでしょう。
※栄養教諭を取得するには管理栄養士の資格が必須です。くわしい取得方法などはこちらの記事で解説しています。
※栄養教諭のリアルな仕事内容や食育に対する理念を取材しました。栄養教諭に興味がある人はぜひ参考にしてください。
まとめ
いまやどんな現場で働く栄養士であっても、食育に携わる必要性が生じたり、食育の推進を求められる場面があったりするのではないでしょうか。
記事では保育所や小学校を始めとする学校機関における食育の考え方や進め方を紹介しましたが、食育とは本来、子どもから高齢者まで関わるもの。
人間の一生を支える考え方や教育といっても過言ではありません。
よって、高齢者施設や社員食堂など、子ども以外の属性の人たちと関わる職場で働く栄養士も、これを機にもう一度食育について学び直してみてはいかがでしょうか。
参考文献・サイト
栄養士の就職・転職なら「栄養士のお仕事」におまかせ!
栄養士/管理栄養士の転職をサポートする『栄養士のお仕事』にはさまざまな求人情報を掲載しています。
あなたにピッタリの求人や好条件の非公開求人などもあるので、気になる方は下の画像をクリック!