東京国際クリニックで活躍する管理栄養士・吉岡 悠里可さんは、委託給食会社や食品メーカー、大学病院など、さまざまな組織で管理栄養士として勤務した経歴を持ちます。そんな吉岡さんが、最終的に選んだのは「患者と近い距離で向き合える」クリニックの現場でした。
病院とクリニックでは業務内容も役割も大きく異なり、働き方にも違いがあります。
病院の管理栄養士を目指したきっかけから、日々の仕事内容、求められるスキル、やりがい、そして現場で直面するリアルな課題まで詳しく伺いました。
東京国際クリニック・管理栄養士、日本糖尿病療養指導士。給食委託会社や食品メーカー、フードコーディネーターなどを経て、医療分野に転向。予防医療の治験を行うクリニックや、大学病院の勤務を経て、現在は東京国際クリニックにて、人間ドックや外来での栄養指導を中心に幅広い年代・疾患を対象としたサポートを行う。
目次
病院の管理栄養士を目指したきっかけ
―――吉岡さんが病院の管理栄養士を目指されたきっかけは何だったのでしょうか?
吉岡:きっかけは、新卒で入社した給食委託会社で、イベントなどを通じて「尿酸値が高い」「貧血で困っている」といった健康相談を受ける機会があったときです。当時の私は医療現場の経験もなく、「教科書で学んだことは伝えられても、しっかりと対応できているのだろうか?」と物足りなさを感じていました。
きちんと悩みに応えたいと思ったことがきっかけで、「医療に関わる現場で働きたい」と考えるようになりました。
ただ、すぐに医療分野に進んだわけではありません。その後は食品メーカーの商品開発に転職したり、ワーキングホリデーを利用して海外で働いたりするなど、さまざまな経験を積みました。その中で、たまたま治験と外来を行うクリニックに就職することになり、「病院で働きたい!」と思う気持ちが強くなりました。
その後、大学病院での勤務を経て、現在の東京国際クリニックに勤めて6年目になります。
―――最初の医療現場が治験を行うクリニックというのは、かなり珍しいご経歴ですね。
吉岡:そうですね。そのクリニックは、少し特殊ではありましたが、糖尿病内分泌内科や一般内科の外来もあり、患者さんと接する機会も多い職場でした。その中で特に印象的なことは、ある医師と看護師の素晴らしい医療連携、患者と医療者の信頼関係を目の当たりにしたときです。患者へのアプローチや治療への考えなどはもちろん、心の通った診療にとても強い感銘を受けました。それをきっかけに、糖尿病をより専門的に学びたいと思い、日本糖尿病療養指導士の資格を取得しました。
―――現在の東京国際クリニックに転職されたきっかけは?
吉岡:会員制の人間ドックを中心とした施設で、予防医学を推進している点に惹かれました。また、診療科目も多く、検査に必要なCTや内視鏡などもAIを搭載した最新機器がそろい、小さな総合病院のようなクリニックであることにも魅力を感じました。
現在は20代から90代まで、幅広い年代の患者さんに対応しており、循環器疾患、糖尿病、脂質異常症などの生活習慣病などの栄養指導や、エイジングケア、サプリメントなど、幅広い分野の栄養指導を行っております。
病院とクリニックの違い

―――これまで大学病院とクリニック、どちらも経験された吉岡さんが考える、病院とクリニックの違いはどこにあると感じますか?
吉岡:まずは、医療スタッフとの距離感が大きく異なります。大学病院では、例えば内科と栄養科が離れた階にあるなど、物理的にも距離がある場合が多く、医師も忙しいため、気軽に相談できるような環境ではありませんでした。
病院となると外来患者の栄養指導のほかに、入院患者の指導が入ったり、NST(Nutrition Support Team:栄養サポートチーム)などのチーム医療の専門チームと連携したりすることもあるのが特徴です。
一方、現在勤務している東京国際クリニックでは、患者さんが採血や点滴をしている合間に医師へ確認もでき、スタッフ間のコミュニケーションが非常に取りやすいですね。
また、人間ドックに栄養指導が組み込まれているので、外来以外にも幅広い年代の方と定期的にお会いする機会があり、1人の方と継続して関われる点も魅力ですね。
―――病院とクリニックでは、管理栄養士の業務にも違いがありますか?
吉岡:施設によって異なるとは思いますが、病院では栄養指導に加えて入院患者の栄養管理、給食管理業務、カンファレンス、糖尿病教室など勉強会の運営、資料の作成などの業務もあるものの、基本的に「栄養管理」に特化した業務が多い傾向にあります。
一方、クリニックは、栄養指導に加え、「受付業務」「患者さんの誘導などのクラーク業務」「看護師のサポート」といった、栄養指導業務とは直接関係のない業務も多くあります。私の場合は、自分で使う栄養指導用の資料はもちろん、院内配布物などの作成やコラムなど掲載も行ってきました。制作物を作ることは昔から好きでしたので、このような仕事に携われるのはラッキーでしたね。
クリニックは、担当する診療領域も広く、柔軟な対応力や発想力、コミュニケーション力がより求められる現場ですし、「どんな業務にも前向きに取り組む姿勢」も大切だと感じます。
―――求められるスキルにも差はありますか?
吉岡:病院でもクリニックでも共通して大切なのは、医師の方針に沿ってサポートする姿勢です。カルテの内容を正確に把握し、意図を汲んだ栄養指導をすることが求められます。必要があれば、医師や看護師に直接確認する柔軟さも欠かせません。
栄養指導では、生活習慣病だけでなく、さまざまな疾患を持った方の指導、エイジングケア、サプリメント、運動についてなど多岐にわたる相談が多いため、幅広い知識が求められます。どのような相談にもある程度対応できる「知識の広さ」が重要ですね。
患者さんと1対1でじっくり向き合える環境だからこそ、ていねいな対応と観察力がより問われると思います。
―――ほかにもクリニックならではの対応はありますか?
吉岡:今のクリニックでは、ご家族の食事について「毎日の食事がマンネリ化している」「子どもが魚を食べない」といったご相談を受けることも多いですね。
こうした話を掘り下げていくと、家庭の食習慣や食育の課題など、社会的な背景が見えてくることもあります。
さまざまな背景を持つ方々の相談に対応するには、管理栄養士自身が「食が好き」であることも大切です。食材のアレンジ法などを提案する機会も多いので、これも大切なスキルのひとつだと思います。


病院の管理栄養士としての仕事内容
―――クリニックで働く管理栄養士としての、吉岡さんの1日のスケジュールを教えてください。
吉岡:1日のスケジュールはこんな感じです。
■吉岡さんの1日のスケジュール
時間帯 | 業務内容 |
9:00 | 出勤、測定機の立ち上げ |
9:00~14:00 | 人間ドックの会員さんや外来の患者さんの測定業務と栄養指導 |
14:00~15:00 | 昼休憩 |
15:00~17:45 | 外来の栄養指導、カルテ入力作業、栄養業務以外の業務(クリニックに関する媒体作成やコラム執筆、ミーティング、勉強会、業者の対応など) |
17:45前後 | 退勤 |
―――1日に対応される方の数はどれくらいですか?
吉岡:日によって変わりますが6~16人程度でしょうか。人間ドックの受診者や通院の方など、一定数いらっしゃいます。
―――栄養指導では、どのような内容をお話しされているのでしょうか?
吉岡:このクリニックにいらっしゃる方は、会食が多く、朝昼を抜いて夜にまとめて食べる方や、飲酒による肝機能への負担が課題になるケースが多いですね。いきなり生活を変えるのは難しいので、取り入れやすい課題をいっしょに考えています。
ほかにも、糖尿病が増悪してしまい、インスリン注射が必要になってしまった患者さんや1型糖尿病と診断されてしまった患者さんなど、診察室で伝えきれなかった不安でいっぱいな気持ちをお話してくださいます。気持ちに寄り添いお話を伺いながら、少しずつ食生活の改善や血糖改善についてお話をさせていただきます。先生が診察で話しきれなかったところを、もう1回サポートすることが大きな役割です。
プライベートとの両立

―――お休みの日はどのように過ごされていますか?
吉岡:ラグビー観戦が好きで、休日はジャパンラグビー リーグワンのシーズンの試合を見に行くことが多いですね。
ラグビーに興味を持ったのは、以前、ラグビーチームのサポートに関わったことがきっかけです。当時はとくに関心がなかったのですが、2019年のワールドカップを機に試合観戦に行くようになりました。
今のクリニックでは、ラグビー好きの患者さんも多く、共通の話題として盛り上がることもあります。
―――お仕事以外での勉強の時間も確保されていますか?
吉岡:学会に行くことも多いですね。最近はオンラインでの開催も増えてきているので、参加しやすいです。
ほかにも気になるテーマがあれば、勉強会やセミナーにも参加しています。
また、栄養相談でわからなかったことなどは、隙間時間に調べるなど、できるだけ時間を割くようにしています。
患者さんを支える病院の管理栄養士としてのやりがい
―――管理栄養士として働く中で、やりがいを感じる瞬間はどのようなときですか?
吉岡:患者さんとの対話を重ね、信頼関係が築けたときにやりがいを感じます。指導の成果が表れたときはとくにうれしいですね。
大学病院では、私を指名して相談予約をしてくださる方がいたことも印象に残っています。今のクリニックでも、「聞いてよかった」「いわれたことが腑に落ちた」といった声をいただくたびに、この仕事の意味を実感します。
ある患者さんが、以前は卵ばかり食べていたのですが、最近はオートミールやマグロの缶詰を取り入れてくれるようになったことがありました。小さな変化でも、指導したことを実行してもらえるのは本当にうれしいですね。

―――失敗したことなどもありますか?
吉岡:失敗したこともたくさんあります。医療現場に入って最初のころは、忙しさのあまり言葉の選び方を間違って、患者さんを不快にさせてしまうこともありました。とくに、センシティブな状況では一言の影響が大きいので、言葉遣いには細心の注意を払っています。
ただ、失敗から学ぶ姿勢も大事ですが、ときには引きずらずに切り替えることも必要です。前向きに続けるための気持ちの持ち方も、病院やクリニックの勤務に必要なスキルのひとつだと思います。
病院の管理栄養士を目指す方へのメッセージ
―――これから病院やクリニックで働く管理栄養士を目指す方に向けて、アドバイスをお願いします。
吉岡:まず何より、「患者さんが現在よりも健康的で充実した生活を送れるようサポートすること」、そして「患者さんの改善を心から願う気持ちを大切にすること」が大切です。ボランティア精神のようなホスピタリティがないと、医療職としては続けていくのは難しいと思います。
そして、学び続ける意欲も欠かせません。私もまだ知らない病態はたくさんありますが、「もっと知りたい」と思える気持ちが、日々の成長につながっていると感じます。
―――医師や他職種との連携も重要になりますよね。
吉岡:はい。病院でもクリニックでも、チーム医療の中で動くことになります。先生の方針を理解し、その意図をくみ取って行動することが求められます。
私は、直接患者さんと対話できる環境でデータを見ながら適切にサポートできるところに、すごくやりがいを感じています。たくさんの職場を経験しましたが、今後もこのクリニックで医療に携わっていきたいなと思っています。
とくに、複数の診療科がある施設では幅広い知識が得られるので、「学びたい」「患者さんの力になりたい」という気持ちがある方には、病院やクリニックはとてもやりがいのある環境だと思いますよ。
まとめ
吉岡さんは、患者さんひとりひとりと、ていねいに向き合い、生活習慣や背景に寄り添いながら、継続的なサポートをする姿が印象的でした。その根底には、「患者さんのために学び続ける」という強い意志が感じられます。
とくに、クリニックでは、「管理栄養士=栄養指導」という枠にとどまらず、資料作成や広報、関係構築など、担う役割は多岐にわたります。
知識とホスピタリティの両方を大切にしながら、みずからのスキルを磨いていける人にとって、病院やクリニックは大きなやりがいを感じられる職場です。管理栄養士としての可能性を広げたい方は、ぜひ挑戦してみてください。

病院やクリニックで働く管理栄養士の基礎知識を紹介!
病院やクリニックで働く管理栄養士は、医療チームの一員として、治療や健康管理に欠かせない存在です。ここでは、その役割と具体的な仕事内容についてご紹介します。
病院やクリニックの管理栄養士の役割
病院やクリニックの管理栄養士は、医師や看護師などの医療スタッフと連携しながら、患者さんの病状や治療内容に合わせた栄養サポートをします。病院では治療の一環としての食事提供だけでなく、疾患の予防や回復促進のための指導やアドバイスも担い、入院から外来まで幅広く関わります。
クリニックでは、比較的軽症の患者さんと接する機会が多く、信頼関係を築きながら、長期的な支援ができるのも特徴です。
病院やクリニックの管理栄養士の仕事内容
病院やクリニックの管理栄養士の仕事内容は、患者の栄養状態を評価し、食事や生活習慣を改善するサポートをすることです。総合病院などでは、カンファレンスへの参加や学会の資料づくりなどを行うこともあるでしょう。
クリニックでは、栄養指導のほかにも受付業務や電話対応、クリニック内で使う資料作成など、栄養業務とは異なる仕事やクリニックの運営にかかわる仕事にも積極的に対応することを求められます。
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