栄養士・管理栄養士のみなさんにとって、衛生管理は基本中の基本。とくに調理の前や調理中の「手洗い」にはかなり気をつけていることと思います。
しかし、実際の調理現場では洗い方が統一されていなかったり、そもそも正しい手洗い方法が共有されていなかったりなど、職場によって手洗いの方法にばらつきが多い現状があります。
その結果、食中毒などの事故が起きてしまう可能性は充分にあります。
ということで、おさらいの意味も含めまして、この記事では文部科学省が発表している「学校給食調理場における手洗いマニュアル」から、科学的根拠に基づいた正しい手洗いの方法を紹介します。
目次
手洗いが原因で大規模な食中毒事故も! 改めて知るべき手洗いの重要性
そもそも、なぜ手洗いは重要だといわれているのでしょうか?
その理由は、主に以下の3つに集約できます。
①手にはおびただしい数の微生物が付着しているから
②手は食中毒の原因となる病原微生物を媒介するから
③食中毒の原因菌は手洗いによって取り除けるので、食中毒の予防につながるから
つまり、人間の手は微生物や病原菌が付着しやすいので、衛生的な状態を保っていないと健康被害を引き起こす可能性が非常に高くなるのです。
不十分な手洗いが原因で食中毒が発生してしまった事例があります。
2007年、ある学校給食の現場で発生した「ノロウイルス食中毒事例」は、ノロウイルスの陽性反応があった調理スタッフが出勤していたにもかかわらず、職場において対策が打たれなかったうえに、感染したほかの調理スタッフにも手指を介した調理を継続させていたことが主な原因とされています。
献立の一部に加熱工程がなかったことや配食が素手で行われていたことも事故の一因と結論づけられました。
この事件で食中毒にかかったのは、児童・教員・保護者あわせて864名。
過去最大規模の食中毒事故事例であり、手洗いの重要性を改めて痛感させられる事例です。
◆参考:文部科学省「手洗いが不十分であったために発生した食中毒事例」
手作業の多い調理現場では、どうしても手を媒介に病原微生物が食品についてしまう可能性があります。
食中毒は自分だけではなく、大勢の人を巻き込んでしまう大事故につながる危険性があるため、調理を行う栄養士・管理栄養士は、日頃から正しい手洗いを実践し、調理者以外にも共有する必要があるといえます。
栄養士・管理栄養士が目指すべきは「衛生的手洗い」
次に手洗いの目的を確認してみましょう。目的をわかっていないと、調理現場における手洗いの本来の理想からずれていってしまいます。
文部科学省の資料によれば、手洗いは目的別に3つのレベルに分けられます。
①「日常的手洗い」
②「衛生的手洗い」
③「手術時手洗い」
このうち、栄養士・管理栄養士が実行するべきは②の衛生的手洗いです。
調理の現場における手洗いの目的は、
・汚れを落とす
・付着した微生物や病原微生物を物理的に除去する
この2つにあり、衛生的手洗いが達成するべきは上記の目標です。
①の日常的手洗いは、いわば一般家庭で行われるような手洗いの方法であり、付着した病原微生物などを洗い流すというよりも、手の汚れを落とすことが目的なので、石けんや流水で充分なことがほとんど。
③の手術的手洗いは、一時的に付着した病原微生物だけではなく、人間の手や指紋、皺の深い場所にいる常在細菌叢の除去も目的にしているので、③の方法でやってしまうと、過度な手洗いになってしまうのです。
給食調理などの現場では、②の衛生的手洗いによって、食中毒などの事故を引き起こしかねない病原微生物や汚染物質を物理的に除去し、感染の経路を断つのが目的となります。
手洗いには「標準的な手洗い」「作業中の手洗い」の2種類がある!
目的がわかったところで、次に「いつ(場面)」「どんな(方法)」手洗いをすべきか確認してみましょう。
まず、手洗いの方法には「標準的な手洗い」と「作業中の手洗い」の2種類があります。
この標準的な手洗いと作業中の手洗いを、業務の場面に合わせて使い分けるとよいでしょう。
先に示した文部科学省が定時している手洗いマニュアルにおいても「学校給食衛生管理の基準」を元に、以下の場面で「標準的な手洗い」と「作業中の手洗い」の使い分けを推奨しています。
標準的な手洗いの方法
標準的な手洗いが推奨されるのは、
・作業開始前及び用便後
・汚染作業区域から非汚染作業区域に移動する場合
この2つのタイミングです。
では、標準的な手洗いの具体的な方法について、以下に紹介していきます。
手を洗う前のチェック
・時計、指輪をはずしましょう。
・爪は短く切りそろえておきます。
・手に傷がある場合は消毒などで処置をほどこし、手洗い後は手袋をしてください。
洗い残しの確認
◯のしてある箇所は洗い残しが多い場所です。洗ったあと、もう一度確認してみてください。
STEP1.流水ですすぐ
まずは手を流水で軽く洗い、汚れを落とします。こうすると、石けんがよく泡立つようになります。
STEP2.石けん液を手に取る
手洗いに使っている石けん液を適量、手に取ります。
STEP3.泡立てる
泡立てていきます。このとき、手のひらを合わせて、充分に石けんが泡立つように意識してください。
あまり泡立ちがよくないときは、水ですすいだ後、STEP2.をもう一度やります。
STEP4.手のひら・甲を洗う
5回程度、手の甲を手の平で洗っていきます。手を交互に組み換え、両手を洗うようにしましょう。
STEP5.指の間
指の間を洗っていきます。このとき、指は組んだ状態にして、両手の指の間を入念に洗うようにしましょう。洗う回数は5回程度です。指の間は洗い残しが多い箇所なので、気をつけてください。
STEP6.親指の付け根
親指の付け根を洗います。コツは親指全体を包み込むようにして、5回程度洗うこと。手は組み換え、両手を洗うようにしましょう。親指も洗い残しが多い部分なので気をつけてください。
STEP7.指先
指先を洗うときは、反対の手の指を立てるようにし、手のひらで洗っていきましょう。こちらも5回程度洗い、手を組み替えて両手を洗ってください。指先も洗い残しが多いので、注意が必要です。
STEP8.手首
両方の手首を洗います。
STEP9.肘
肘を洗います。
STEP10.爪ブラシ
爪ブラシを使って、爪の間を洗いましょう。爪の間の汚れはブラシでなければ取れません。
STEP11.流水ですすぐ
泡の中には、微生物がたくさんいます。そのため、流水で充分に除去しなければなりません。15秒程度、流水で泡のついた手をすすいでください。
STEP12.ペーパータオル
手を拭く際はペーパータオルを使います。ペーパータオルは水気を吸いやすいので、よく拭き取るように。充分に拭き取りをすることで微生物を減らせますし、アルコール消毒の効果も高くなります。
STEP13.アルコール消毒
アルコールを指先にかけるように、手のひらでアルコールを受けます。
STEP14.指先にアルコールをすり込んでいく
指先には微生物が残りやすいので、指先からアルコール消毒を始めましょう。指先にアルコールをすり込んでいきます。
STEP15.親指の付け根にすり込んでいく
次に、親指と親指の付け根にまでアルコールをすり込んでいきます。
STEP16.手のひら・甲にすり込んでいく
手のひらと甲にもアルコールをすり込みましょう。
STEP17.指の間にすり込んでいく
指の間にアルコールをすり込んでいきます。
STEP18.手首にすり込んでいく
手首にアルコールをすり込みます。このとき、アルコールが乾くまですり込むことを意識してください。
◆参考:文部科学省「学校給食における標準的な手洗いマニュアル 」
作業中の手洗いの方法
一方の作業中の手洗いですが、こちらは
・食品に直接触れる作業に当たる直前
・生の食肉類、魚介類、卵、調理前の野菜類等に触れた後、他の食品や器具等に触れる場合
など、まさに作業の途中で必要が生じる手洗いです。
具体的な作業中の手洗いの方法は以下のとおりです。
STEP1.流水ですすぐ
手を流水ですすぎ、汚れを洗い落としていきます。
STEP2.石けん液を手に取る
石けん液を手にとり、適量で泡立てていきます。
STEP3.手全体
手のひら・甲・指先・指の間・親指の付け根と、手を全体的に洗っていきます。
STEP4.流水ですすぐ
手全体についた泡立てた石けん液を充分に洗っていきます。
STEP5.ペーパータオル
ペーパータオルで拭いてきます。水分は充分に拭き取りましょう。
STEP6.アルコール消毒
指先にかけつつ、手のひらでアルコールを受けます。
STEP7.手にアルコールをすり込んでいく
指先・指の間・親指など、手全体にアルコールをすり込みましょう。
◆参考:文部科学省「学校給食における作業中の手洗いマニュアル 」
非汚染作業のなかでアルコール消毒が必要なときは以下の場合です。
①食品に触れる前
②食肉・魚介・卵・野菜など生の状態の食材に触った後
③汚れ物を触った後
④必要に応じて適宜
正しい手洗いのポイントは5つ!
栄養士・管理栄養士が実践したい手洗いを紹介してきましたが、最後に、科学的な根拠に基づいた正しい手洗いのポイントを5つ整理していきます。
①温水で洗うのが望ましい
衛生的な手洗いをする際は、できれば温水で洗うことが理想です。
なぜなら、温水には洗浄効果があるとされているからです。冷水に比べ、温水には手荒れを防止する効果もあり、冬場は快適でもあるので手洗い不足にも有効です。
充分な手洗いの効果を期待するならば、冷水よりも温水を使って実践する方が適しています。
そのため、手洗いに適した設備をチェックするときは、温水の有無にも注目してみてくださいね。
②アルコール消毒推奨
衛生的な手洗いには、アルコールでの消毒が有効です。
手についた微生物を除去するためには、アルコールは、石けんや水による手洗い以上に効果があります。
文部科学省の資料によれば、大腸菌を塗布した手を使い、指の爪の間にアルコール消毒を施した場合と施さなかった場合の菌の増殖率に関する実験で、充分にアルコール消毒した場合はほとんど菌が増殖しなかったとの結果が報告されています。
また、アルコールは食中毒の原因菌に対する効力が高いことでも有名です。
そのため、手洗いの仕上げの消毒としてアルコールは積極的に使うようにしましょう。
③爪ブラシを使って爪の間もキレイに
手洗いというと、つい指や甲、手首などを想像しがちかもしれません。
しかし、手洗いにおいてそれらの部位と同じぐらい重要なのが爪の間の洗浄です。
実は爪の間にはたくさんの手指細菌が存在しており、それらは通常、標準的な手洗いでは除去することが厳しいとされています。
そのため、衛生的な手洗いを励行するには爪ブラシの使用が推奨されているのです。
④手を拭くときはペーパータオルで
手洗いのあとは自然乾燥ではなく、ペーパータオルできちんと拭き取るようにしましょう。
手が濡れたままだと、手についた微生物や病原微生物などは食品や食器などに簡単に移ってしまうため、汚染の元となってしまいます。
そこで、水分を吸い取ってくれるペーパータオルで拭くことによって手指に残っている微生物を減少できるのです。また、ペーパータオルを使うことで、手洗い後のアルコール消毒の効果も高まります。
⑤1回の長時間手洗いより2回の短時間手洗い
文部科学省の資料では、手洗いは長い時間洗ってもあまり効果がないという調査結果が報告されています。
実は、1度に長時間洗うよりも、短時間でも2回洗ったほうが効果があるといわれているのです。
1度の手洗いでは、手に付着した微生物を洗い落としきれない可能性があったり、石けんの泡と微生物が共存していることがあったりするからです。
手に付着した油脂などによる汚れにより、一度目の手洗いでは充分な泡立ちができないときもあります。
そのため、より確実に衛生的な手洗いをするならば、2回に分けて行った方が無難でしょう。
まとめ
美味しく、健康的で、安心安全な食事を提供するためにも、栄養士・管理栄養士は衛生面に充分な気を配る義務があります。
今まで職場で共通の手洗いの方法が共有されていなかったり、手洗いが不足していたり、過剰だったりした人は、ぜひこの記事で紹介した方法を職場で共有してくださいね!
参考文献・サイト
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