武蔵村山市立第七小学校の栄養教諭として働く、吉村康佑(よしむらこうすけ)先生。
前編では、吉村先生のお仕事論をくわしく伺いました。
取材の後編では、吉村先生の食育に対する思いなど、食育を通じて子どもたちに伝えたいことをお聞きします。
さらに、武蔵村山市立第七小学校の学級園で採れた野菜を使った授業風景もお届け。
栄養教諭を目指す人は必見の内容です!
目次
作り手と食べ手が繋がれば、双方に良い影響を与え合える
―――現在、武蔵村山市立第七小学校では吉村先生が中心となって、農家さんに協力を依頼しつつ、全学年の子どもたちと一緒に学級園で野菜づくりをしているとのこと。吉村先生は、もともと野菜づくりの知識や経験があったんですか?
吉村:
いえ、まったくありませんでした(笑)。
第七小学校にはもともと学級園があったんですが、野菜づくりをもっと本格的に行うにあたり近隣の農家の方々に協力をお願いするようになってから、僕も育てながら学んでいます。
―――野菜づくりに関しては、吉村先生も未経験だったのですね。そもそも、どうして野菜づくりを本格的にやろうと思ったのでしょうか?
吉村:
武蔵村山市には農友会という市内の農業者団体があって、所属の農家さんたちが給食用の野菜を作ってくれています。
農友会では年に1回、昨年度の結果と今年度の予定をすり合わせる会議があって、農家さんたちと知り合うことができたので、僕から「うちの小学校で野菜づくりを教えて頂けませんか?」と声をかけたのがきっかけです。
プロの方から何かを教えてもらう機会は、子どもにとって非常に貴重な体験になると思ったので、ぜひお願いしたかったんです。
あとは、人と人とが繋がり合うことが自分の仕事の理念なので、作り手側と食べ手側をちゃんと繋ぎたいという思いがありました。
―――作り手側が農家さん、食べ手側が子どもたちで、この両者を繋ぎたいと。
吉村:
そうです。市内の農家さんたちと、給食を食べている子どもたちが繋がったら、どちらにも良い影響を与えられるのではないかと考えたんです。
たとえば、農家さんの「君たちがいま食べている小松菜は、私たちが作っています。美味しく食べてもらいたいと思って、心を込めて作っているので、残されたら悲しいです」という声を直接聞いたら「食べ物をもっと大事にしよう、給食を残さず食べよう」と思えますよね。
実際に、そういう日の給食の残菜はかなり減るんです。
―――なるほど。ちゃんと農家さんの顔や名前を見て繋がることが、作り手側の気持ちを想像させるんですね。
吉村:
はい。給食で食べる野菜の作り手をリアルに紹介することで、「自分が毎日食べている給食は誰かの支えや思いがあってできているものなんだ」と、子どもに気づいてもらう。それが、ねらいのひとつです。
一方で、農家さんたちにも実際に給食を食べている子どもたちの姿を見せることは、良い影響があると思っています。
―――今度は、食べ手側から作り手側に与えられる影響の話ですね。
吉村:
そうです。実際に食べている人の姿を見ることが、農家さんたちの仕事の活力になればいいなと思って。
つまり、作る側の人も食べる人の姿を見て知ることで、「どういう人たちがどんな状況で、どんな思いで食べているのか」といったイメージが湧くのではないかな、と。
昔、「作り手は食べ手側のことを知らないと自己満足で終わってしまう」という言葉をあるプロの料理人さんから学んだんですが、僕もまさにその考えです。
―――吉村先生が給食の見回りに行かれるのは、そういう考えもあってのことだったんですね。
吉村:
はい。それって、野菜を作っている人にもきっと良い影響を与えられる考え方なんじゃないかな、と思ったんです。
―――ちなみに、吉村先生から「第七小学校の野菜づくりに協力してほしい」という提案を聞いた農家さんたちの反応は?
吉村:
僕が農家さんたちに懇願したので、「そこまでいうなら協力するか!」という感じだったのかもしれませんが(笑)。
やっぱり農家さんたちも子どもたちや食に対する思いの部分で共感してくれたり、熱い想いを抱いていたりしているな、と感じています。
というわけで、ぜひ学級園で採れた野菜を使って子どもたちがどんなふうに授業を受けているのか、見ていってください!
上手にできるかな?「とうもろこしの皮むき」にチャレンジ!
この日、吉村先生はとうもろこしの皮むきを1年生たちが体験する授業をしました。
子どもたちが食や野菜に興味を持ってもらえるよう、授業には仕掛けが満載です。
まずは、とうもろこしをモチーフにしたキャラクターのお面(吉村先生の手作り)をつけた先生が登場! 途端に、1年生たちの興味は津々です。
盛り上がったところで、皮むきを始める前に、子どもたちは吉村先生と一緒にとうもろこしのことを勉強します。
「とうもろこしには、黄色以外の種類もあります。黒いとうもろこし、白いとうもろこし、むらさきのとうもろこし。それと、虹色のとうもろこしです」
と、1年生が知らない種類のとうもろこしを写真と一緒に紹介。子どもたちの「ええーー!」という驚きの声が上がります。
また、農家さんがとうもろこしを収穫する時間帯について、吉村先生は子どもたちにこう話しました。
「農家さんたちは、夜中の2時から3時に起きてとうもろこしを収穫しています。それが、とうもろこしが一番甘くて美味しくなる時間帯だからです。農家さんたちは、みんなにとうもろこしを美味しく食べてもらいたい、喜んでもらいたいと思って、そんなに早い時間帯に起きるんです」
こうしてプロの農家さんの仕事の話をすることで、吉村先生は子どもが食について考える機会、農家さんたちの思いを感じるきっかけを提供しています。
さて、座学のあとはいよいよとうもろこしの皮むきです。皮むきの方法を確認したら、各クラスに分かれて実践!
夢中で黙々と皮むきをする子もいれば、楽しそうに笑い声を上げながら皮をむく子も。
「うまくむけない」という友達を手伝ってあげる子もいます。
それぞれのリアクションは違くても、みんな真剣で、本当に楽しそうです。
子どもたちの様子を見て回る吉村先生。うまくむけない子がいれば、傍に行って助けます。
この日は副校長先生の中山先生をはじめ、他の先生方も協力。副校長先生をはじめ、担任の先生方もとても楽しそうでした。
子どもたちが皮をむいたとうもろこしを見て「みんな、本当に上手にできたね!」と吉村先生。
この日皮むきをしたとうもろこしは、次の日の給食に出る予定。
「みんなが『美味しく食べてくれますように』と思いを込めてむいてくれたとうもろこしが、給食でどんなふうに出るのか、ちゃんと見て、食べてくださいね」
と語る吉村先生の言葉から、自分たちで野菜を育て、それを食べるまでが食育の授業なのだな、と感じます。
ただ皮むきをするだけで終わるのではなく、子どもたちに食材に興味をもってもらい、食べることに感謝の気持ちを抱いてもらえる授業にしたい。そんな吉村先生の思いが伝わってきました。
食育は心の豊かさと生きる糧を教える教育
―――素敵な授業を見学させて頂き、ありがとうございました。学級園で採れた野菜を楽しそうに扱っている子どもたちを見ると、吉村先生が伝えたいものを感じ取ってくれているのではないか、と思います。吉村先生は野菜づくりを通じて、どんなメッセージを子どもたちに発信していますか?
吉村:
まず、僕は子どもたちに命の大切さや思いやりの心を学んでほしいなと思っています。
野菜づくりは、命を育てる行為でもあるので、そこから思いやりとは何かを考えたり、感じたりする機会を作ることで、子供たちの心を豊かにしたいと考えています。
野菜づくりも含め、僕は食育を心を育てる教育だと思っているんです。
―――実際に、子どもたちが思いやりの心を学んでいるなと感じたり、心が育っている瞬間に立ち会ったりしたことはありましたか?
吉村:
以前、こんな印象深いことがありました。
子ども食堂に届ける野菜を収穫しようと思って、1年生が育てている畑のきゅうりやナスを僕が選んでたんですね。
そしたら1年生の子たちがやって来て、「先生なにしてるの?」と聞くんです。
「君たちが作ってくれた野菜をこれから子ども食堂に届けるから、それを選んでたんだよ」と答えたら、ある男の子がこう言いました。
「先生、あっちにもっと大きい野菜があるから、それを持って行ってあげて」。
「ああ、心が育つっていうのはこういうことだなあ」と実感しました。
自分たちが一所懸命育てた野菜を人にあげることの意味をちゃんと学んでくれてるし、思いやりとはどういうことかを考えてくれてるな、と。
―――ジーンとしますね……。
吉村:
あと、また1年生の話なんですけど、去年1年生の子が学級園をテーマにした作文を書いてくれて。その内容がすごかったんです。
「みなさんは学級園に行ったことがありますか。僕は学級園に感謝しています。なぜなら、学級園は命をいただく場所だからです。なので、みなさんも学級園に行くことがあったら『ありがとう』という気持ちで行ってください」と。
「1年生でこんな文章が書けるのか……」と、感動したんですよね。嬉しかったので、その作文は武蔵村山市の広報誌にも掲載してもらいました。
―――吉村先生が食育の授業を通じて教えたいことが、ちゃんと伝わっていますね。
吉村:
授業で僕が教えたいことって、目には見えないことなんですよ。
「ちゃんと伝わってるのかな? 教えられているのかな?」と心配していた部分もあったんですが、こういう瞬間に立ち会っているうちに「これでいいんだ」と少しずつ自信も持ち始めました。
なので、こういう話をきちんと周囲にも伝えて、食の大切さを普及することが栄養教諭としての自分の役目だと思っています。
―――心を動かすこと、思いやりの心をもつこと、命の大切を知ること。それが、吉村先生が大切にしている食育の理念なんですね。改めて、食は子どもたちに大きな影響を与えるものなんだと思います。
吉村:
そうですね。なぜって、食べることって、心の喜びにも繋がっているからだと思うんですよ。
例えば、朝ごはんをしっかり食べている子と食べていない子では、脳内の分泌物質に差が出るので、日中の落ち着きが全然違うと学んだことがあるんですが、その時「なるほど。食事は体の成長を助けると同時に心も育てるんだな」と、感動したんです。
「心身ともに健康」とはよく言ったものですが、健康って体だけじゃない。心も含めることなんです。心身ともに健康な状態を作るには、僕は食事ってものすごく重要な役割を持っていると考えていて。精神科病院で働いていたとき、色々な患者さんを見て、それをすごく感じたんですよね。
だから僕は、食べることは生きるうえで本当に大切なことで、生きる糧なんだということを、きちんと子どもたちに伝えていなければならないと思っています。
栄養教諭は人の命を救える仕事!子どもの未来を守ることが自分たちの使命
―――すごく使命感を持っていらっしゃるんですね。その使命感はどうして生まれたんでしょうか?
吉村:
僕がここまで食育のことを考えるようになったのは、やっぱり精神科の病院で働いていた経験がすごく大きいと思います。
過食嘔吐が止められなかったり、病気で食べたいものも食べられなかったりなど、心や体の病気で苦しむ人たちをたくさん見て、「ここに来る子を1人でも減らしたい」と考えるようになりました。
食が心身に与える影響って、本当に大きいです。心の健康と体の健康がなかったら、自分が描く夢を叶えることすらできなくなってしまう。
でも「そんなこと知らなかった」「先生はそれを教えてくれなかった」と、食の大切さを知らなかったことで後悔するような大人に、僕はなってほしくありません。
だから、将来の日本を担う、未来や可能性をたくさん秘めた子どもたちに、僕は食の大切さを伝え続けることが自分の使命と感じています。
―――それが、教育に関わる者として吉村先生が子どもたちに向ける信念なんですね。最後に、栄養教諭を目指している人たちに応援の言葉を頂けますか?
吉村:
栄養教諭は、すごく可能性のある仕事です。
また、食の大切さを伝えることで、人の命を救えたり、未来を守れたりする可能性もある。
東京都では、栄養教諭はまだなり手も少なく、人手も足りていませんが、子どもたちを支えることで、将来の日本を良くしていきたいという思いや志のある仲間を僕たちは待っています。
一緒に日本を良くしていきましょう!
まとめ
とうもろこしの皮むきの授業の後、多目的教室を出ていく子どもたちを見送る吉村先生は、一人ひとりにこんな声をかけていました。
「いっぱい食べて大きくなってね!」
この言葉にこそ、吉村先生の栄養教諭としての思いや愛情が詰まっているように感じました。
心と体を健やかにして生きる。それを支えるものこそが、「食」。
そのことを伝えるべく「いっぱい食べて大きくなってね」と笑顔で話しかける吉村先生の姿は、これからもきっと子どもたちの心を動かしていることでしょう。
栄養士の就職・転職なら「栄養士のお仕事」におまかせ!
栄養士/管理栄養士の転職をサポートする『栄養士のお仕事』にはさまざまな求人情報を掲載しています。
あなたにピッタリの求人や好条件の非公開求人などもあるので、気になる方は下の画像をクリック!