病院や高齢者施設で行われている「栄養管理(ケア)・マネジメント」。「栄養マネジメント加算」として、介護保険の点数にもなる栄養士の重要な仕事のひとつです。
近年、この栄養ケア・マネジメントは、国際的な基準などにあわせた「栄養管理プロセス/栄養ケアプロセス(NCP:Nutrition Care Process)」という名称で用語や概念の統一が進められています。
社会人としてすでに働いている管理栄養士のみなさんは、「今までの栄養管理とどう違うの?」という疑問もあるかもしれません。
今回は、そんな栄養管理プロセスを実際に病院に勤めていた経験を交えながら解説したいと思います。
目次
「栄養管理プロセス/栄養ケアプロセス」の全体の流れ
「栄養管理プロセス/栄養ケアプロセス」の流れは以下の通りです。
・スクリーニング
・アセスメント
・栄養診断
・栄養介入
・モニタリングと評価
※退院時には、アウトカム評価をおこないます。
大まかな内容は、これまで行われてきた「栄養ケア・マネジメント」と大幅に変わるものではありませんが、患者の栄養状態を国際的な基準を用いて評価・判定する「栄養診断」が追加されているのが特徴といえます。
スクリーニング・評価
スクリーニングは、SGA(主観的包括的評価)を用いることが一般的です。
SGAを用いて、患者の栄養状態を評価します。
例えば、SGA評価でリスク点の合計が、「0~1→「異常なし」/2~4→「軽度」/4~6→「中等度」/7~9→「高度」の栄養不良と判定する」など、どこをリスク点とするか、またその合計点数の評価も含めて院内で基準を決めていることが多いです。
SGA(主観的包括的評価)
カルテからの情報や現病歴、体重変化などから栄養状態が低い患者を抽出する方法。簡便で感度が高い。主観的な評価であるため、熟練を要する。
◆参考:
・佐藤和人、本間健、小松龍史、『エッセンシャル臨床栄養学 第5版』、医歯薬出版株式会社、2009年、pp352-355
栄養状態の評価(SGA)の実際
SGAの評価表は、各施設で独自に作成していることが多く、フォーマットやSGA項目は異なります。
ただし、複数の病院に勤めた経験のある管理栄養士の話によると、
とのことですので、「病院が変わったからSGAについて一から学び直さなくてはならない」ということにはならないようです。
また、私が勤務していた病院では、SGAで高度の栄養障害と判定された患者は、NST(栄養サポート)チームへ紹介することになっていました。
患者のベッドサイドでしか分からないこともある
SGAは、患者本人や家族からの情報収集も大切です。
なぜなら「1日2食・食べる時間が不規則・夕方●時までに食べ終える」など独自の食生活(=独自ルール)の人も多いため、高齢者では入院中の食事摂取量が低いというケースもあり、ベッドサイドで話を聞かなければ分からないこともあるからです。
患者本人と意思疎通が難しい場合でも、ベッドサイドに出向けばご家族がいることも多く、ある程度の情報収集は可能です。
栄養管理計画書の作成
患者に「特別な栄養管理」が必要な場合、栄養管理計画書を作成します。
スクリーニングで抽出された患者が対象になることが多いですが、「特別な栄養管理」であるかどうかの判断は、病院や施設によって異なります。
私が勤めていた病院では、以下の患者を対象としていました。
・BMIが18.5未満(やせ)の患者
・特別食(※)を提供する患者
・SGAで高度の栄養障害と判定された患者
※特別食:制限がある食事。糖尿病食、減塩食、貧血食、肝臓病食、痛風食、高脂質血症食、潰瘍食、低残渣食、透析食、胃切除食などのこと
栄養管理計画書は、「他職種と共同して作成する」ことが条件です。
私が勤務していた病院では、
●医師
栄養管理計画書の文書を作り、日付・提供する食事の種類(食種)などを記入
●担当看護師
患者の入院時の身長、体重を記入、退院時評価もおこなう
●管理栄養士
必要栄養量を記入、退院時評価もおこなう
という役割分担でした。
「後から作成」の計画書は忘れずに
特別な栄養管理の必要性や栄養管理計画書の作成は、患者が入院してきたら即対応すべきですが、夜間入院である場合など難しい時があります。
その場合は「入院後7日以内に作成すること」と決められています。
不備があった場合には、過去に遡って入院基本料の返金を患者に行わなければなりません。
病院の経営にも関わるため、注意が必要です。
栄養診断の実際
栄養診断は、患者の栄養状態を診断する国際的な基準のことです。
栄養管理プロセスの中で新しく取り入れられたため、実際に栄養診断を完全に取り入れている病院は、まだまだ少ない現状のがだと思います。
また、栄養診断を知っていても、独自の方法でカルテを記載していることがあります。
栄養分野の最新情報は、上司から聞くことが多かったですが、外部のセミナーで学ぶこともありました。
栄養介入
患者に適した食事の提供や栄養指導を通して、栄養の改善をはかります。
私は糖尿病患者を受け持つことが多かったのですが、医師の食事指示箋に基づき、食事を提供していました。
献立は「糖尿病食事療法のための食品交換表」に基づいて作成し、1日合計800~2000kcalまで、約200kcal間隔で食事の種類を用意していました。
注意が必要な栄養介入
入院するまでは好きなように食事をしていた患者が多く、入院すると適正なエネルギー量を提供しているのにお腹が空く、ということも多いです。
また、急にエネルギーを低くすると、除脂肪組織(筋肉など)が減少し、空腹感によるリバウンドのリスクが高まります。
ベッドサイドで患者の意見を聞きつつ、主治医や他職種と相談しながら、緩やかに食事量を減らしていきます。
患者さんの嗜好もある程度考慮
患者さんの嗜好を考慮せず、理想の食事内容に近づけようとするあまり、食事の時間が嫌いになってしまう患者さんもいます。
食事療法は、患者さんのモチベーションを保つことが何より大切ですので、ここは管理栄養士としての腕の見せどころです。
病院食が口に合わず、設定したエネルギー量を食べられないというケースも多く、ベッドサイドで患者に、「どんなものだったら食べられるか」「何をしたら食べられそうか」を聞きます。
主治医に相談し許可をもらい、摂取量UPのために「ご飯にはふりかけ可」など、特別対応をすることもありました。
モニタリングと評価
体重や血液検査データなど、栄養状態の変化をモニタリングしていきます。
治療とともに患者さんの栄養状態は変化していくため、入院時に計画した目標や食事量を見直す必要があります。
モニタリングをする頻度を決めておく
モニタリングする頻度は、病院や施設によって異なります。
私が勤務していた病院では、
・スクリーニングで「高度の栄養障害」の患者さん:1週間に1度
・「中等度の栄養障害」の患者:1ヶ月に1度
・「栄養状態が良好」な患者:3ヶ月に一度
と、決まっていました。
元病院勤務の管理栄養士が教える栄養管理のポイント
最後に、病院で勤務していた経験から、栄養管理プロセスにおける大切なポイントを紹介したいと思います。
栄養計画は「根拠」を明確に!
栄養計画を立てる際、根拠を明確にすることが大切です。
例えば、
などです。
定期的にカンファレンスをおこなう病棟もあり、管理栄養士も参加します。
その際、栄養学的に問題のある患者について、「現状の摂取エネルギー量は、目標エネルギー量の何%にあたるのか」など、他職種から説明を求められることが多いです。
高齢者が多い病院や施設に就職する場合、嚥下障害や褥瘡、栄養補助食品について勉強し、根拠となる知識の引き出しを増やすとよいでしょう。
栄養介入では管理栄養士の積極的なアプローチが重要
栄養介入では、管理栄養士としての栄養の知識だけでなく、患者さんの対応や他職種へのアプローチが重要です。
ある例では、嚥下障害で低栄養状態の患者Aさんは、「夕食に提供される甘い栄養補助食品(飲み物)が苦手。スープのような味ならば飲めるかも」とのこと。
主治医と言語聴覚士に相談し、嚥下レベルを確認してもらった後、甘くない栄養補助食品(飲み物)に変更すると、飲めるようになりました。
Aさんは、「変更してもらえると期待していなかった」と思っていたとのこと。
主治医や担当看護師でも、受け持ち患者の嗜好まで把握できない場合もあるため、このように管理栄養士が積極的に介入していくことが大切なのです。
まとめ
栄養管理プロセス(栄養ケアプロセス)の大まかな流れは、どこの病院や施設でも大差ないといえます。
管理栄養士として大切なのは、栄養に関する知識だけでなく、患者さんのベッドサイドまで足を運ぶなど「積極的な行動(アプローチ)」です。
経験談をまじえて、実際の栄養管理の流れについてまとめましたが、参考になれば幸いです。
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