介護の現場で日々提供される「介護食」というと従来、「おいしくない」「食べにくい」といったイメージを持っている人も多いかもしれません。
しかし、介護食は年々発展しつつあり、介護食を提供する人たちにとって、いかに利用者に食事をおいしく楽しく食べてもらうことができるかということも共通の目標となっているでしょう。
さまざまな理由で介護が必要な状態になってしまった人や栄養状態の改善が必要な高齢者にとっても、食事はおいしく楽しく食べたいもの。
おいしく食べやすい介護食のニーズが高まるなか、介護関連の現場で働く栄養士・管理栄養士はどのようにスキルを磨けばよいのでしょうか?
そこで注目したいのが「介護食士」の資格です。
今回は、介護食の正しい知識と調理技術を学べる介護食士の資格について、概要を紹介します。
目次
「介護食士」は介護業界で働く栄養士・管理栄養士にピッタリ!
「介護食士」は、「公益社団法人 全国調理職業訓練協会」が認定する資格制度。
内閣総理大臣認定のもと、公益事業として認可されているため、民間資格のなかでも権威のある資格といえるでしょう。
栄養士・管理栄養士をはじめ、調理師やホームヘルパーなど、介護サービス利用者の食事に関連した業務を行う人たちにぴったりの資格です。
介護食の調理技術向上や高齢者が適切に栄養を摂れる食事の提案など、介護食を学びたいすべての人に役立つ知識が身につくでしょう。
資格は1~3級まであり、1級がもっとも高い等級です。
介護食士のスキルは業務の質向上に直結!
介護食士の資格は仕事に活用できます。
高齢者施設やデイサービス、在宅介護サービスなどで食事を提供する栄養士・管理栄養士は、利用者一人ひとりに合った献立作成や調理を行うことで、利用者の健康状態と栄養状態の質を保ちます。
食べることが難しい利用者にもおいしく食べてもらえるメニューを考案したり、これまでにない調理法を導入したり、食事にちょっとした工夫を施したりなど、勉強したスキルは仕事に役立つこと間違いなしです。
「口から食べる」をサポートする介護食士のニーズはより高まっている
おいしく、食べやすい食事は、QOLの向上や高齢者の生きる意欲を支えることにもつながります。
これまでは介護食というとチューブなどを使った栄養補給が中心だったり、そもそも「おいしくない」という印象があったりと、口から食事を摂っておいしく食べるというイメージはありませんでした。
しかし、2005年に介護保険の一部として「経口栄養法」が認められたことにより、介護が必要な高齢者も口に食べ物を運び、そしゃくし、味わって食べるという食事本来の楽しさを感じられることが重要視され始めました。
介護保険の改正により、経口栄養法の価値が見直されるようになったのには、嗅覚・味覚・資格・聴覚・触覚の五感を使って食事を楽しむことが、高齢者の神経や筋肉の運動を促進させ、身体機能の維持や低下防止につながると見出されたという理由もあります。
昨今の介護食には高齢者の身体だけではなく心の健康の維持や向上まで担う役割があると認識されており、だからこそ介護食のきちんとした知識と調理技術をもつ人材のニーズが高まっているといえるのです。
介護食士と介護食アドバイザーの大きな違いは内容の充実度と受講条件
実は、介護食士のほかにも介護食に関係する資格があります。その代表的資格が「介護食アドバイザー」です。
介護食士と類似される資格として知られていますが、具体的にどこが違うのでしょうか?
①介護食士は72時間の学科・実習あり
介護食アドバイザーもまた、介護食の調理や提供に必要な知識と調理技術を習得できる資格です。
高齢者の心理や介護食の基礎知識、高齢者の病気や生活スタイルなどを学ぶことで、技能を仕事に活用することができます。
しかし、一番の違いは「内容の充実度」でしょう。
介護食士の場合は、学校などの施設で開講される72時間の学科・実習の講習会を受講、また80%以上の講習会の出席と講習会終了後の試験で60点以上をとる必要があるなど、資格取得のハードルは決して低くありません。
逆にいえば、それだけ内容が充実しているということであり、実習などで自分の技術も磨けるため、しっかり学びたい人にはうってつけです。
一方、介護職アドバイザーは、テキストを自宅で学習する通信講座であり、資格試験についても自宅で受験可能です。時間のない方でも生活にあわせた学習ができるので気軽に受講できる点はメリットといえます。
②介護食士の受講は実務経験が必要な等級もある
介護食アドバイザーには等級がなく、職業や立場によっては少しカリキュラムが物足りなく感じる人もいるかもしれません。
また、介護食士は実務経験と資格を保有していることが受講の条件となる等級もあるため、誰でも受験できる介護食アドバイザーとは対照的です。
こうした内容の充実度や受講条件の違いなどを踏まえたうえで、介護食に関する資格を取りたい人はどちらが自分に合っているのか、吟味してみてくださいね。
【介護食士】
・学校などの施設で開講されている講習会を受講
・72時間の学科・実習(時間は1~3級で共通)
・等級によって実務経験の受講条件あり
【介護食アドバイザー】
・送付されたテキストを独学で学ぶ
・自宅で試験を受けることが可能
・誰でも受講できる
介護食士の取得方法と各級の特徴
介護食士の資格を取得するには、協会が主催する「介護食士講座講習会」を受講し、筆記試験と実技試験に合格する必要があります。
講習会を受講するには、
・専門学校などの講習会を実施している学校に入学し、受講する
・一般人の受講も受け入れている講習開講校で授業に出席する
というふたつの方法があります。
筆記試験・実技試験を受けるには、講習会に80%以上出席していることが必要です。
試験は60点以上の得点で合格となります。
以下が各級の特徴です。
介護食士3級
3級では、高齢者の身体機能や栄養素に関する基礎知識から、食品と調理の衛生知識、そして「飲み込みやすい『介護食』」を作る技術を学びます。
3級に関しては受講資格はとくになく、誰でも受講することができる等級となっているため、栄養士・管理栄養士だけではなく一般人にも開かれているのが特徴です。
カリキュラム
学科(25時間)
介護食士概論、医学的基礎知識、高齢者の心理、栄養学、食品学、食品衛生学実習(47時間)
調理理論・調理実習Ⅰ、調理理論・調理実習Ⅱ
介護食士2級
2級を取得するには、介護食士3級を保有していることが受講条件です。
医学に関する基礎知識から高齢者の心理など、3級で学んだことよりもさらに専門的なことを勉強します。
介護食に関しては、おいしくて食べやすいレシピについてや生活習慣予防食に関する知識を学びます。
カリキュラム
学科(16時間)
医学的基礎知識、高齢者の心理、栄養学、食品学、食品衛生学実習(56時間)
調理理論、調理実習
介護食士1級
もっとも等級の高い1級を取得するには、介護食士2級の取得後に2年以上の実務経験が必要です。
25歳以上で、介護食調理業務に関わった経験も受講条件。
かなり本格的なレベルとなるため、カリキュラムの内容もいままでの級よりも応用的な知識と技術を身につけられるものとなっています。
栄養状態の判定法や低栄養状態に合った献立の立案、食品と薬の関係を学ぶ授業など、介護食を食べる人の健康と栄養を最大限支えられる技能の習得が目的です。
調理の実習では、多種多様な身体機能と疾病に対応できる介護食を考案し、調理できる力を学びます。
カリキュラム
学科(32時間)
医学的基礎知識、高齢者にかかわる制度、栄養学、食品学、食品衛生学実習(40時間)
調理理論、調理実習
資格取得と連携している専門学校一覧
介護食士の資格取得には講習会に出席する必要がありますが、学校によっては開講がない等級もあります。
一般的に受講生は、
・介護食士3級(一般人対象)
・介護食士3級(学生対象)
・介護食士2級
・介護食士1級
という4つの区分で受講が分かれるため、学校で授業を受ける際は受けたい等級と自分の受講条件を確認するようにしましょう。
資格取得で連携している学校は、以下のページより一覧で見ることができます。
まとめ
経口栄養法によって、その役割や存在意義が見直された「介護食」。
それとともに、おいしく、身体にもよく、食べやすい介護食を作れる栄養士・管理栄養士のニーズは高まってきました。
食べることは老若男女問わず、人間らしい生活を健康的に維持するために必要な行為。
思うように身体が動かなくなったり、介護が必要な状態になってしまった人でも、豊かな食事や食事の楽しみは担保されるべきでしょう。
介護食にかかわる栄養士・管理栄養士は、このことを念頭にぜひ介護食士の資格を検討してみてはいかがでしょうか。
参考文献・サイト
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