管理栄養士や栄養士の仕事は、食の専門家として重要な役割を担う一方で、現場からは「辛い」「大変」という声も多く聞かれます。特に病院や介護施設、保育園などでは、限られた人員で多くの業務をこなす必要があり、体力・精神力ともに負担を感じる人が少なくありません。
この記事では、栄養士や管理栄養士の仕事が「辛い」といわれる具体的な理由や、悩みを軽減するための対処法、そして自分に合った働き方を見つけるヒントを紹介します。
【この記事でわかること】
●管理栄養士・栄養士が「仕事が辛い」と感じる具体的な背景や現場のリアル
●辛さをやわらげるためにできる実践的な対処法と考え方のヒント
●今の職場が合わないと感じたときに考えたい、資格を活かした転職の選択肢

目次
管理栄養士や栄養士の仕事が辛いと思う理由
管理栄養士や栄養士の仕事には、高度な専門性が求められる分、「辛い」と感じやすい側面もあります。現場で働く人が実際に感じている主な悩みや課題は、下記になります。
●常に時間に追われ、休みが取りづらい
●献立を考えるのに苦労する
●専門性や成果が評価されにくい
●責任が重く、精神的なプレッシャーが大きい
●患者とコミュニケーションを取るのが難しい
●職場の人間関係に気を使う場面が多い
●立ち仕事が多く、体力が必要になる
常に時間に追われ、休みが取りづらい
管理栄養士や栄養士は、限られた時間で多くの業務をこなさなければならず、常に時間に追われて休みが取りづらいといった悩みがあります。特に、病院や福祉施設では、栄養評価やカンファレンス、食事摂取の確認、資料作成、病棟業務など、対応すべきタスクが次々と発生します。
さらに、管理栄養士や栄養士が1~2名体制の職場も多く、資格者が少ない現場では、業務をほかの職員に引き継ぎにくいため、自由に休暇を取りづらいことも課題です。
特に給食の現場では、パートの調理員が現場を支えていることが多く、そうした方々をまとめるのも大変な作業です。公務員栄養士の場合は、比較的休みを取りやすい環境のようですが、民間の職場では資格者が少ないため、休みの調整が難しいという声をよく聞きます。
献立を考えるのに苦労する
管理栄養士や栄養士にとって、献立作成は大きな負担になりがちな業務のひとつです。対象者の体調や年齢、栄養バランスなどに配慮しながら、現場のルールや制約に沿って考える必要があり、特に治療中の方や高齢者向けの献立では難度が高くなります。
献立づくりは、栄養価をしっかり満たしながら現場の条件に対応する必要があり、非常に難しい作業です。経験がものを言う部分も大きく、特に病院では予算の制約もあるため、難度はさらに上がり、負担が大きくなる原因になります。
関連情報:栄養士必見!毎日の献立作成が楽になる良質レシピサイト6選!
専門性や成果が評価されにくい
管理栄養士や栄養士の業務は、病気の予防や健康維持といった長期的な視点で取り組むものが多く、すぐに目に見える成果が出にくいという特徴があります。そのため、他職種と比較して評価されにくいと感じる場面もあり、「努力が報われにくい」とモチベーションの低下につながることもあります。
最近は、病後の食事指導や健康維持の重要性が少しずつ認知されてきましたが、それでも診療報酬は低く、管理栄養士の地位は依然として高いとは言えません。専門性の高い仕事であるにもかかわらず、社会的評価が十分に追いついていないのが現状です。
責任が重く、精神的なプレッシャーが大きい
管理栄養士や栄養士は、食を通じて人の健康や命に関わる重要な役割を担っています。特に、臨床栄養士として病院で糖尿病や腎臓病などを担当する場合、命に関わる責任が非常に重くなります。栄養指導やアレルギー対応、食事制限などで、慎重な判断が求められる場面も多く、精神的なプレッシャーを感じやすい職種です。
患者とコミュニケーションを取るのが難しい
管理栄養士や栄養士の仕事では、患者とのコミュニケーションに課題を感じる場面も多くあります。栄養指導をしても、実践してもらえなかったり、反応が薄かったりと、思うように成果が得られないことも少なくありません。
一人ひとりの性格や生活習慣、価値観に合わせた対応が求められるため、専門知識だけでなく、相手に応じた伝え方やアプローチの工夫が必要です。
職場の人間関係に気を使う場面が多い
管理栄養士や栄養士が小数の職場では、自分の意見が通りにくいケースも少なくありません。さらに、調理師やパート職員など、年齢や立場の異なるスタッフとの関わりが多い職場では、業務以外の場面でも気を使う必要があり、ストレスの原因になることもあるでしょう。
立ち仕事が多く、体力が必要になる
管理栄養士や栄養士の仕事には、献立作成や書類業務だけでなく、調理補助や病棟ラウンドなど、体を使う作業も多く含まれます。厨房では重い鍋の持ち運びや、高温環境での作業などが日常的であり、体力的な負担は避けられません。
管理栄養士・栄養士の仕事が辛いと感じた際の対処法
仕事が辛いと感じるときは、無理をして続けるのではなく、自分の心身を守るための対処が必要です。ここでは、業務の見直しやスキルアップ、人間関係の工夫など、現場で実践しやすい対処法を紹介します。
●業務を見直して、無理のないスケジュールに整える
●スキルアップに取り組み、専門性を深める
●患者とコミュニケーションをこまめにとる
●体のメンテナンスを怠らない
●職場の人とは適度な距離感を保ち、無理に関わりすぎない
●思い切って職場を変えてみる
業務を見直して、無理のないスケジュールに整える
仕事が辛いと感じるときは、まずは日々の業務を見直すことが大切です。完璧を目指すよりも、優先順位をつけて整理することで、心身の負担を減らすことができます。
特にスケジュール管理は、自分に合った方法を確立することがポイントです。
管理栄養士や栄養士の業務は多岐にわたり、自分のペースを守るためにも、スケジュール管理の方法を工夫することはとても大切です。私は次のようにスケジュール管理をしています。
●仕事依頼のメールを締め切り順にアラーム機能で管理
●撮影・取材・ミーティング・試作・準備などを色分けし、手帳に手書きで整理
●メールと手帳を併用し、ダブルチェックで抜け漏れやダブルブッキングを防止
デジタル管理だけでは、アラームを消した後に対応を忘れてしまうこともあるので、手書きの管理も併用するのがおすすめです。
スキルアップに取り組み、専門性を深める
学会やセミナーへの参加や新たな資格の取得などで専門性を深めることは、仕事の自信や選択肢の広がりにつながります。資格には、糖尿病療養指導士や公認スポーツ栄養士など、実務に活かせる資格も多数あるので調べてみるといいでしょう。
関連記事:「糖尿病療養指導士」はなぜ役立つ? 糖尿病治療チームのメンバーにも選ばれた私が感じた、取得するべき理由
関連記事:スポーツ栄養学のスペシャリスト!公認スポーツ栄養士になるには?
関連記事:「選手とともに一流を目指す」公認スポーツ栄養士が語るやりがいと働き方
私の場合は、撮影の仕事が多いためフードコーディネーターの資格を取得しておいて本当によかったと感じています。また、東洋医学にも関心があり、「国際中医薬膳師」「国際中医師」の資格を取得したことで、薬膳関連の仕事も増えました。
最近では、ペット関連の事業も拡大しているため、「犬の管理栄養士」の資格もおすすめです。これは通信講座で比較的取得しやすく、実用性もあります。
資格に限らず、講義・講演・習い事などでも、何かに取り組むことで将来的に思わぬ形で仕事につながる場合があるので、学ぶ姿勢を持ち続けることが、結果としてキャリアの幅を広げてくれると思いますよ。
関連記事:フリーランスの管理栄養士の仕事とは?必要な資格や開業方法も解説
患者とコミュニケーションをこまめにとる
患者の立場や心理状態に寄り添う姿勢は、効果的な栄養指導の基本です。すべての患者が病気の改善に前向きとは限らないため、小さな目標からスタートするなど、無理のないアプローチが求められます。
雑談などを交えながら、患者の生活や価値観を理解することで、実践につながる指導がしやすくなり、献立作成や対応時のストレスも軽減されます。
私自身、個人クリニックでの栄養指導を少し経験したことがありますが、患者さんの中には「実践が難しい」「話を聞く余裕がない」という方も多くいらっしゃいました。そうした患者さんに対しては、次のような工夫を心掛けていました。
●情報はできるだけ簡潔かつ少なめに伝える
●栄養指導とは直接関係のない雑談を積極的に行い、運動の話題や家庭の話などにもふれる
●医者による投薬管理をしていて急な体調変化が起きにくい場合は、実行可能な目標を1つに絞って取り組んでもらう
こうした対応を重ねることで、信頼関係が生まれ、少しずつ実践につながっていくケースが多くありました。
関連記事:病院・クリニックで働く栄養士・管理栄養士のお仕事とは?
関連記事:「多様な患者さんと向き合える」病院とクリニックの管理栄養士の違いと仕事内容
体のメンテナンスを怠らない
管理栄養士や栄養士の仕事を長く続けるためには、体調管理が欠かせません。立ち仕事による腰痛や疲労を軽減するには、日々のストレッチや運動習慣が効果的です。
また、空き時間に体をほぐしたり、腰痛ベルトやコルセットを活用したりして負担を軽減する工夫も役立ちます。休養や栄養をしっかりとり、十分な睡眠時間を確保することで、すこやかな体を維持しましょう。
体のメンテナンスは、管理栄養士として長く仕事を続けるためにもっとも重要なことです。私自身は次のようなメンテナンスをしています。
●運動習慣:ほぼ毎日筋トレを行い、体幹や足腰をケア
●鍼灸ケア:月に1回、信頼している鍼灸院で全身をケア
●薬膳・漢方の活用:季節に合わせた薬膳や軽めの漢方を取り入れ、体調の悪化を予防
また、信頼される管理栄養士であるためにも、見た目の健康感や清潔感、美容意識も大切だと考えています。「ベスト体重をキープする」「ストレスをためない」「肌の調子を整える」など、自分自身が「健康の体現者」である意識を持つようにすることも大切です。
職場の人とは適度な距離感を保ち、無理に関わりすぎない
人間関係のストレスを避けるには、相手に合わせすぎず、適度な距離感を保つことが大切です。依頼や意見は、丁寧でやわらかい言い回しを意識することで、衝突を避けながら伝えることができます。
また、聞き役に回ったり、プライベートな話題を控えたりすることで、不要なトラブルを防げます。職場に相談できる相手がいない場合は、栄養士会の研修などを通じて同業者とのつながりを持つのも有効です。
思い切って職場を変えてみる
あらゆる工夫をしても辛さが改善されない場合は、転職を検討するのも1つの選択肢です。無理を続けるよりも、自分に合った職場に移ることで、心身の負担を減らし、長く働き続けることができます。
栄養士専門の求人サイトを活用すれば、資格を活かせる多様な職場を効率的に探すことが可能です。転職は「逃げ」ではなく、自分らしく働くための前向きな手段と捉えましょう。
管理栄養士・栄養士の仕事が活かせる転職先
管理栄養士や栄養士の資格は、医療・福祉分野にとどまらず、幅広い業界で活かすことができます。現在の職場が合わないと感じている方も、これまでの知識やスキルを活かして、新たなフィールドにチャレンジすることは十分可能です。
資格を活かせる代表的な転職先は下記のとおりです。
■管理栄養士や栄養士の仕事が活かせる転職先
職場 | 主な仕事内容 |
---|---|
病院やクリニック | 主に栄養指導や栄養管理をする臨床部門、献立作成や食材発注を行う給食部門があり、役割は職場の規模によってさまざま |
食品メーカー | 冷凍食品や離乳食、健康食品、サプリメントなどの開発・企画・市場調査、レシピ開発、特許出願時の書類作成、顧客対応、品質、衛生管理などを行う |
福祉施設や介護施設 | 利用者ひとりひとりの状態を把握した上で普通食から流動食、刻み食など、さまざまな形態の調理法で献立を作成する |
保育園や学校 | 献立作成や食材の発注、保護者に向けた食育活動、予算管理などを行う。学校で働く場合は、学校栄養職員と栄養教諭という選択肢がある |
行政機関 | 地方公務員として保健所や役所などで働き、地域住民の健康に関するイベント実施や栄養相談などを行う |
給食委託会社 | 病院や介護福祉施設、幼稚園・保育園、学校、企業などに派遣され、食事を提供する。調理がメインの場合が多い |
スポーツ業界 | スポーツチーム、スポーツジム、医療機関、ジュニアスポーツ関連組織で成績向上や体力強化のための栄養指導をする |
美容業界 | 美容クリニック、美容サロン、化粧品メーカーなどで食事内容や生活習慣の改善提案やレシピ紹介などを行うが、仕事内容は職場によってさまざま |
関連記事:管理栄養士の就職先は?活躍できる場所や仕事内容、選び方を解説
近年はコロナ禍の影響もあり、健康志向の高まりをよりいっそう実感しています。
私自身は、これまでも「食は人間の基本であり、体をつくる根幹」だと考えていましたが、コロナ禍の経験を通じて「食の仕事は一生ものになる」と、あらためて重要性を実感しました。
人の健康を守り、病気を予防し、治療の手助けをする——そのような管理栄養士・栄養士という仕事に、誇りを持ってがんばってほしいです。
ただし、辛い職場、無理ある働き方で、自分の健康を害してしまうと、ほかの人を健康にすることはできません。管理栄養士を活かせる職場は多岐にわたりますので、自分に合う場所へ迷わず飛び込み、食にまつわる仕事を長く続けていただければうれしいです。

よくある質問
管理栄養士や栄養士の仕事が辛い理由は?
管理栄養士や栄養士の仕事が「辛い」と感じる主な理由には、「常に時間に追われて休みが取りづらい」「責任が重く精神的なプレッシャーが大きい」「献立作成に苦労する」「患者とのコミュニケーションが難しい」など、日々の業務に関する悩みが挙げられます。そのほかにも、「専門性や成果が評価されにくい」「職場の人間関係に気を使う場面が多い」「立ち仕事が多く体力的に負担がかかる」など、人間関係や体力面に関する課題も、モチベーション低下の一因となっています。
管理栄養士や栄養士の悩みの解決法は?
管理栄養士や栄養士の仕事が辛いと感じたときには、「業務を見直して、無理のないスケジュールに整える」「スキルアップに取り組み、専門性を深める」「患者とコミュニケーションをこまめにとる」といった日々の働き方の工夫が必要です。
そのほかにも、「体調管理を徹底する」「職場では適度な距離感を保つ」「思い切って職場を変える」といった選択肢も、長く仕事を続ける上で有効です。
管理栄養士や栄養士のおすすめの転職先は?
管理栄養士や栄養士の資格は、病院やクリニックなどの医療分野はもちろん、福祉施設・介護施設といった福祉分野でも活かすことができます。そのほかにも、食品メーカーや保育園、学校、行政機関、給食委託会社、スポーツ業界、美容業界など、活躍の場は多岐にわたります。
栄養士の就職・転職なら「栄養士のお仕事」におまかせ!
栄養士/管理栄養士の転職をサポートする『栄養士のお仕事』にはさまざまな求人情報を掲載しています。
あなたにピッタリの求人や好条件の非公開求人などもあるので、気になる方は下の画像をクリック!