保育園や病院など栄養士・管理栄養士の就職先として人気の高い施設は多々ありますが、高齢者施設もその一つ。
将来、高齢者施設で働きたいと考えている学生やこれから転職先として検討している人も多くいるでしょう。
高齢者施設のなかでも「特別養護老人ホーム」は、施設数が多くみなさんの就職・転職の候補先にあがっているかも知れません。
しかし、いくら情報を調べてみても出てくるのは上辺の情報ばかり……と思ったそこのアナタ。
「現役で特養で働く人の声」、気になりませんか?
そこで今回は、『栄養士のお仕事Magazine』のライター兼現役の特別養護老人ホームで働く管理栄養士・ゆいさんに、普段の仕事内容から大変なことや忙しさ、新人が気をつけたいことまで、深~く聞きました!
ゆい(32歳)
特養勤務歴9年目の管理栄養士。大学卒業後、社会福祉法人運営の特別養護老人ホームに就職。給食管理・栄養ケアマネジメント・イベント食の企画などを行う。メンタルフードマイスター、介護食アドバイザーの資格保有者。
特別養護老人ホームとは?
公的運営による介護施設のひとつ。入居費・月額費が安く、入所期間が無制限であることから入居者は「終の棲家」にすることもできる。ただし入所に必要な要介護度のレベルは比較的高く、最低でも要介護3の状態から入居可能。
目次
実習経験が特養への就職を後押しした
---ゆいさんは新卒で就職した社会福祉法人の特養施設に9年お勤めとのこと。最初から特養への就職を決めていたのですか?
ゆい:
はい。管理栄養士になろうと思ったのは、料理や栄養に関する知識があると自分の実生活にも役立つと思ったからで、管理栄養士として「何かをしたい」というわけでも、ましてや「高齢者施設に入ってお年寄りのために何かしたい」という思いが最初からあったわけではありませんでした。
でも、大学3年生で特養に実習に行って、志が変わったんです。
---実習先の特養での経験が進路を決めたということでしょうか?
ゆい:
そうです。実習は3ヶ所選ぶ必要があって、特養のほかに病院と保健所にも行ったんですが、特養が一番しっくりきました。
最初は病院志望だったんですが、いざ行ってみると「ちょっと思ってたのと雰囲気が違うな」と思いまして。
それで特養に行ったとき、私の実習に合わせて、施設が流しそうめんのイベントを開いてくれたんですが、すごく楽しかったんです。
イベントやレクリエーションを体験して「自分がやりたいことはこっちだな」と思い、進路を病院から特養に変えました。
---高齢者施設に絞って就職先を選んだというより、特養に絞って選んだのですか?
ゆい:
そうですね。学生のころは特養以外の高齢者施設のことも、特養との違いもよく分かっていなくて、高齢者施設全般の特徴などは就職後に知りました。
やっぱり、楽しくレクリエーションができたり利用者さんと触れ合えてお話できたりする職場で働きたかったので、特養は自分のやりたいことに近い仕事ができると思ったんです。
1ヶ月の仕事内容・スケジュールは自分で調整
---「やりたいことができる職場だと思った」とのことで、そちらのお話も後ほどお伺いしたいのですが、その前に1日のお仕事の流れを教えて頂けますか?
ゆい:
定時は9時~17時半です。
勤務形態はシフト制でして、シフトを出す段階で自分の1ヶ月の業務内容をある程度決められるため、日によって業務内容に変動があります。
ある日の一例を紹介しますね。
9:00 | 出勤・朝礼 |
昨夜の利用者さんの状態を共有し合う「申し送り」 | |
9:30 | 厨房仕事/事務仕事 |
配膳チェック | |
11:00 | 入居者さんの昼食開始 |
フロアに出て入居者さんとコミュニケーションを取る | |
12:00 | 納品・検品作業 |
12:30~13:30 | 昼食 |
14:00 | 献立作成・ケアプラン作成・発注書作成・イベントの資料作成・提案書作成など事務仕事 |
17:00 | 入居者さんの夕食開始 |
配膳チェック | |
17:30 | 退勤 |
---高齢者施設の管理栄養士さんって厨房でのお仕事は少ないイメージがあるのですが、ゆいさんは調理も行うのですか?
ゆい:
うちは直営の施設という関係から、委託会社さんのように調理師と栄養士の業務が明確に分かれているわけではなく、栄養士も厨房職員としてカウントされます。
なので、日によっては調理師さんと一緒に1日中調理業務を行うこともあります。
配膳は利用者さんの食事の時間に間に合わせないといけないので、もし時間が押していたら急遽ヘルプに入って調理を手伝うことも。
---会議に出席することはありますか?
ゆい:
週1で13時30分から30分前後、各部署の責任者による会議があります。
私は栄養・調理部の責任者なので参加しています。
介護士さんや看護師さんたちに混ざって、伝達事項や直近の利用者さんの様子などを共有します。
---他の職種の方とも協働する機会は多いと思うのですが、どのような場面で、誰と協働していますか?
ゆい:
大きな場面としては3つあります。
ひとつは、介護士さんと看護師さんとの情報共有。
入居者さんの状態把握が目的でして、入居者さんの体調の変化や改善に関することなど、主に健康面に関する情報を教えてもらいます。
もうひとつは、生活相談員さんやケアマネジャーの方との協働ですね。
入居者さんとのコミュニケーションでは、個々のパーソナルなエピソードが必要になったり、知っていると会話の糸口になるような情報があります。
そういった入居者さんの家族状況や生活背景に関する情報は、生活相談員さんやケアマネさんから教えてもらうことが多いです。
---最後のひとつは?
ゆい:
入居者さんのケアプランの見直しの時期です。これは職員全員との協働が必要になります。
ケアプランを見直すときは、各職員が自分の仕事の観点からプランを考案します。
私は、対象の入居者さんのところに行って「最近食べられないものはありますか?」「食べたいものの希望はありますか?」など直接ヒアリングをしたり、介護士さんに食べているときの様子を聞いたりなどしてプランを作っています。
そのあと会議で全体に提案し、みんなで最終的な判断を下していく、という感じですね。
---日々の情報共有だけではなく、入居者さんに大きな変化が起こる際にも、職場全体で協力し合っているんですね。特養での栄養士さんにとって、いかに他職種との連携が大事なのか分かります。
食と心の問題に注目し、入居者のためにイベント食を企画
---特養は「やりたいことができる職場だと思った」とのことでしたが、どういう点がご自身のやりたいことにつながったのでしょうか?
ゆい:
やっぱり楽しいことができる職場という点ですね。
最初の自分の目標ややりたいことは、どちらかというと「自分がやりたい」ことの実行だったんですが、入居者さんとの触れ合いや交流を続けていくうちに、「入居者さんたちのために楽しいことを提供することが、自分が本当にやりたいことだな」と思うようになりました。
---楽しいことをしたい、とは具体的にどういうことでしょうか?
ゆい:
私が特養に就職を決めたきっかけは、流しそうめんのイベントだったことをお話しましたが、まさにそういうレクリエーション的なイベントを食事を通して企画し、入居者さんに楽しんでもらうことが自分の目標になっていったんです。
今私が注力している仕事は、イベント食の企画です。
季節食、暦の行事に合わせた行事食、世界の料理、そして郷土料理の4つのテーマのもとに作った食事を毎月4回~5回、入居者さんたちに提供しています。
自分で短いコラムと写真つきのポスターも制作して、施設内に貼ったり。
▲写真提供元:ゆいさん
---すごく楽しそうな取り組みですね! なぜそのイベント食の企画を始めようと思ったのですか?
ゆい:
特養で色々な入居者さんと接していくうちに、悩みを聞く機会も増えていったんですよね。
そもそも、特養の入居者さんは要介護度が高く、好きなものを食べたり、自由に外出することも難しい人が多い。
「毎日変化がなくて面白みがない」「ご飯が美味しくなくて食事の時間がつまらない」「外出もなかなかできないし楽しみがない」……こういう声を聞いているうちに、なんとかして元気を取り戻してもらいたいな、何か喜んでもらえることをしたいな、と思っていました。
それでふと「食事と心ってつながってるんじゃないかな?」と思ったんです。
---食事と心の健康には関連がある、と。
ゆい:
そうです。それで、七夕なら七夕の食事、ひな祭りならちらし寿司など、入居者さんが子どものころに食べた記憶がある行事食を出したり、各地の郷土料理を作ったりなど、そういうイベント色の濃い企画をやったら、特養での生活にハリとか楽しみを感じてもらえるんじゃないかなと思いました。
---素晴らしいアイディアですね!
ゆい:
とはいえ、心に元気を与えるために食からアプローチすることが、科学的に正しいことなのかわからなかったんです。
どうせやるなら知識と理論で裏づけて企画に説得力をもたせたかったので、「食と心の関係を学べる講座とかないかな?」と思って探したら、「メンタルフードマイスター」という資格があったので、取得しました。
---なるほど。では、今一番熱を入れているお仕事はイベント食なんですね。
ゆい:
そうですね。私は今自分に1ヶ月のノルマとして、「1ヶ月に1回は新しいことをやる・提案する」ということを課してるんですが、その一環がイベント食です。
私がこういう取り組みを続けることで、次世代の栄養士に財産を渡せるんじゃないかとも思っているので、イベント食は今後も続けていきたいですね。
高齢者施設は全体的に働きやすい職場
---ところで、お休みは何日ぐらいあるんですか?
ゆい:
会社の規定で夏休み・冬休みを年に4回取れます。
それとシフト上の決まりとして、月に8日は必ずお休みを取ることになっているので、あとは有給をプラスして、月のお休みを決めています。
土日祝日は関係ない職場なので、平日休みの日もあります。
年間の休日日数としては、110日前後ぐらいです。
---有給は毎月取れるのですか?
ゆい:
調理場の人員次第ですが、私はほぼとれています。厨房の人たちと相談してからの申請になりますが、みんなで相談して交代でまとまった休みを取ることもできるので、有給は取りやすい環境ですね。
---では旅行なども行こうと思えば行けるんですね。繁忙期はありますか?
ゆい:
うちは年末年始やお盆休暇もないのですが、業者さんはお休みに入るので、その時期は前倒しで仕事をしなくちゃいけません。そこ以外は、とくにコレといった繁忙期はないですね。
---残業に関してはいかがですか? 1ヶ月にどれぐらいあるのでしょうか。
ゆい:
私は月に10時間ぐらいです。
さっきシフトを組む時に自分で1ヶ月の業務を決められると言いましたが、1ヶ月間での業務バランスを見たときに「この日は調理業務しかできなそうだけど、事務仕事が間に合わなそう」という判断をしたときは、予め残業をスケジュールに入れることはあります。
突発的に残業が発生してしまったり、提案書や企画書の作成の時間を多めに取った分できなかった仕事を残業で補ったりなど、当日に発生するパターンももちろんあります。
でも、基本的には特養って残業が少ないんです。定時で帰ろうと思えば帰れる職場がほとんどだと思います。
---だから発生しても月に10時間ぐらいなんですね。
ゆい:
ただ、私は仕事が好きなのであえて残ることもあります(笑)。
家に帰っても「今度のイベント食どうしよう」とか「新しくこんなメニュー提案できないかな」とか、仕事のことを考えちゃう時間が多いので、結局家に持ち帰って仕事をすることも。
でも、それはあくまで私が好きでそうしているだけなので、高齢者施設は比較的定時で帰れる仕事だと思いますし、帰れる人は定時で帰ってます。
やりがいは「美味しい」の一言をもらったとき
---ゆいさんはお仕事が好きとのことですが、だからこそ感じているやりがいもあるかと思います。
ゆい:
それでいうと、覚えた知識や最近勉強したことを現場に反映した結果、入居者さんに「美味しい」と言ってもらえた瞬間でしょうか。
私が今一番勉強しているのは、いかに普通食に近い食事を提供できるか、という部分です。
例えば、咀嚼や嚥下能力の低い方に提供するミキサー食って、何を食べているのかわからない形状になることが多いですし、味がよくわからないと言われてしまうことも結構あるんです。
そういった視覚面・味覚面でマイナスの影響を受けると、食べる意欲や食事の喜びって下がっていってしまいます。
なので、私は、見た目も味も普通食に近い介護食を提供することが、入居者さんに食べる意欲や喜びを感じてもらうためのカギだと思っていて。
---なるほど。では、今は介護食をいかに普通食に近づける事ができるのか、勉強しているんですか?
ゆい:
そうです。色んな食品メーカーさんの代替食材を試してみたり、メニューを考案したりしているんですが、そうやって学んで試行錯誤して作ってみた料理を「美味しい」って言ってくれたときは、本当にやりがいを覚えます。
直接「ゆいさん美味しいよ」って入居者さんから声をかけてもらえたときは、もっと勉強がんばろうと思えますし、まだまだ覚えたい知識があるなーと思います。
大量調理に慣れる近道は厨房事情の把握!
---特養をはじめ、高齢者施設で働きたいと考えている学生や若手の栄養士に向けて、特養勤続9年目のゆいさんからアドバイスはありますか?
ゆい:
私が新人のころに苦労したことをお話すると、「大量調理に慣れてない」ということがありました。
栄養士の養成施設って、知識面の勉強がメインなので、調理については実践も少ないし、あまり学べる環境じゃないですよね。
なので、調理の段取りを組むことに慣れが必要でした。
施設によってある、暗黙的に存在する調理手順のルールも最初はわかりませんでした。
また、下処理にどういった機械を使っているのか? 時間はどれぐらいかかるのか? 厨房にある道具で作れる料理なのか? など、調理道具の揃い具合も、新人時代は覚えるのが精一杯で。
調理道具がそろっていないとか調理師さんの人数の問題もあります。
「今度これを作ってもらおう」と思って提案した献立が、道具や人数といった理由で「作れない」と言われてしまうこともありました。
大量調理を行うには、そういった厨房の実態や設備、調理師さんたちの人員数や仕事の進め方も把握していることが不可欠です。
献立作成の際も、厨房事情の考慮は必要です。
---なるほど……調理業務を制するには、調理師さんとの関係も含め、厨房事情を把握することが欠かせないんですね。
ゆい:
そうです。とくに調理師さんとの関係は超重要です。
特養の栄養士は、介護士さんや看護師さんなど、たくさんの職種の人たちと協働しますが、なかでも密接なのは調理師さんたち。
調理師さんたちって私たちのお母さんぐらいの年齢の方も多かったり、勤続年数も長くてベテランだったりする方も多いことが、新人さんが悩みがちな部分かと思いますが……。
---自分より年上の人が多い環境ですよね。
ゆい:
はい。栄養士には、いくら自分よりも年上だったとしても、指示を出して現場を取り仕切る役割があります。
とはいえ、年齢も若く経験も少なくて、その施設の厨房の勝手もよく分かっていないとなると、なかなか意思の疎通がうまくいかないことも起こります。
---だからこそ、厨房事情を把握する必要があるんですね。
ゆい:
そうです! 結局、どれだけ知識を吸収しても、勉強しても、現場で再現できなければ意味がありません。
調理師さんに信頼してもらえないと、知識や勉強も報われないんですね。
なので、恥ずかしがったり上から目線になったりすることはせず、調理師さんにどんどんわからないことを聞いて、厨房のことを教えてもらいましょう。
新人がもつべきは「謙虚さ」と「感謝の心」!知識は後からでも間に合う
---具体的にはどんなふうに関係を構築していけばいいんでしょうか?
ゆい:
誠意を持って接すること! 「教えてください」という謙虚さが大切です。
そうすれば、3~4年目になるころには調理師さんたちとも対等に話したり、仕事がしやすくなったりするでしょうし、一人前として認めてくれるようになると思います。
それは信頼関係を構築したからこそ、です。
なので、新人のうちは自分にできることを粛々と準備しておく方がいいと思います。
例えば、高齢者の食に関することを勉強したり、学校で習った基礎知識を復習したり、施設のルールを覚えたり、家で献立作成の練習をしたり。
新人さんはすぐにできなくても大丈夫!
努力していればちゃんと自信もついてきますし、自分の頑張りを見てくれている人は、絶対にいるので。
---まずは業務の基本となる職場のルールを把握したり、基礎の復習・練習を重ねておくことが大事なんですね……。
ゆい:
知識って、後からでもつけられます。でも、いい人間関係を作るなら、早い段階の方がいいですよね。後々、仕事がやりやすくなります。
なので、まずはよい人間関係の作り方や人に好かれるコツを意識しておくことが大切だなと私は思います。一度そういうコツを覚えておくと、転職したときにも役立ちますし。
---確かに、人間関係のトラブルに巻き込まれない術を知っておくことはどんな職場でも重要ですね。
ゆい:
仕事は、一人じゃ回せません。料理を作る調理師さん、入居者さんをサポートする介護士さんなど、たくさんの協力者がいて成り立つもの。
だから、学生さんや新人さんには「感謝の心を持って働こう」と、伝えたいです。
---最後に、ゆいさんが思う特養での仕事が向いている人って、どんな人ですか?
ゆい:
食べることが好きな人!
食事を単なる栄養補給とか生きる手段ととらえるのではなく、食べる喜びを分かっている人ならピッタリです。
そういう人であれば、入居者さんの心情にも寄り添えると思います。
自分が食べることが好きだからこそアイディアも出ますし、「どうやったら美味しく、咀嚼しやすく食べてもらえるのかな?」といった視点も持てますし、食べる喜びも大切にできます。
食べることそのものが好きなら、それは入居者さんの目線に立った仕事につながります。ぜひ、その気持ちを大事にしてもらいたいです。
まとめ
人間関係に悩みがちな新人さんにとって大事なのは、「謙虚さ」と「感謝の心」。
最初はなかなか慣れないことやわからないルールなども多いかもしれませんが、人間誰しも感謝の心を持って接してもらえたり、おごりのない態度で話しかけてもらえれば、自然と相手に心を開けるものですよね。
ゆいさんのように周りに感謝しながら、コツコツと自分にできる勉強を重ねていくことが、自分にとって仕事がしやすい環境を作ることにつながるのかもしれません。
人間関係で悩んでいる栄養士・管理栄養士のみなさんは、ぜひゆいさんのアドバイスを参考にしてみてください!
取材内容はあくまで一例です。施設によって仕事内容や待遇は異なりますのでご了承ください。
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