管理栄養士として働く中で、「この仕事は将来も必要とされるのか」「AIの進化で役割が減ってしまうのでは」と不安を感じたことがある人もいるのではないでしょうか。近年はテクノロジーの発展や社会の構造変化により、あらゆる職業が見直されつつあり、管理栄養士も例外ではありません。
この記事では、社会背景や技術の進化を踏まえながら、管理栄養士の将来性やAIによる仕事の変化について詳しく解説します。
【この記事でわかること】
●「管理栄養士は将来なくなるのでは?」という不安の背景と実際の将来性
●AIの進化によって変わる管理栄養士の業務と、代替できない専門性
●管理栄養士のスキルアップに役立つ資格やキャリアの選択肢
目次
管理栄養士の仕事は将来性がある
管理栄養士の仕事は、社会のニーズが高まっており、将来性のある仕事といえます。確かに、AIの進化や有資格者の増加によって「仕事が減るのでは?」と心配する声もあります。実際に、管理栄養士国家試験の合格者は、下記のように毎年7,000~1万人ほどにのぼり、一定の競争があるのも事実です。
■管理栄養士国家試験の合格者数
参考:厚生労働省「第39回管理栄養士国家試験の結果について」
しかし、一般社団法人全国栄養士養成施設協会「卒業生の就職率と就職先」によると、2023年度の養成施設卒業生(管理栄養士・栄養士)は1万7,083人でしたが、就職率は90.1%と非常に高い水準を維持しており、ニーズの高さがうかがえます。
■管理栄養士・栄養士の就職先
出典:一般社団法人全国栄養士養成施設協会「卒業生の就職率と就職先」を元に作成(2025年4月現在)
管理栄養士が今後も必要とされる理由は、主に下記の3つです。
高齢化社会による活躍の幅の拡大
高齢化が進む日本では、管理栄養士の活躍の場がさらに広がるでしょう。厚生労働省「我が国の人口について」によると、団塊の世代が全員75歳となる2025年には75歳以上が全人口の約18%となり、2040年には65歳以上が全人口の約35%を占めると予測されています。
高齢者の増加に伴い、生活習慣病や低栄養といった健康課題が増加し、医療や介護の現場での管理栄養士の需要も拡大すると考えられます。
健康志向の高まりと食育の需要
近年では、健康志向が高まっており、食育の重要性も認識されていることから、管理栄養士のニーズは今後さらに強まっていくでしょう。生活習慣病予防はもちろん、ダイエットや美容、スポーツ栄養といった分野でも活躍の場を広げることができます。
とくに注目されているのが「健康寿命」の考え方です。健康寿命とは、介護を受けたり、寝たきりになったりせず、自立して生活できる期間のことを指し、寿命の長さを示す「平均寿命」との間には大きな差があります。
厚生労働省「健康寿命の令和4年値について」によると、健康寿命と平均寿命の差は男性で約9年、女性では約12年におよび、日々の食生活から健康を支援できる管理栄養士の存在は欠かせません。
AIでは代替しにくい国家資格
管理栄養士は、個々のライフスタイルや体調に合わせた対応が求められる仕事であり、マニュアル化やAIによる完全な代替は難しいとされています。実際に、2013年にオックスフォード大学のマイケル・A・オズボーン准教授が発表した「THE FUTURE OF EMPLOYMENT」では、管理栄養士・栄養士は「コンピューター化されにくい職種」第11位にランクインしています。
食生活のアドバイスは、単なる知識提供だけでなく、個人の嗜好や背景に寄り添った提案や共感力が求められる分野です。人と人との関わりを大切にする仕事だからこそ、今後も人の手による支援が重視され続けるでしょう。
AIができる管理栄養士の仕事
近年、AIは管理栄養士の仕事の一部を担えるようになっており、業務の効率化に活用されています。とくに、下記のような業務ではすでに実用化が進んでいますが、AIはあくまで補助的な役割であり、すべてを代替できるわけではありません。
献立づくり
AIは、栄養バランスや食材などの条件をもとに献立の自動作成が可能です。実際に、一部の給食センターや医療・介護施設では、AIによる献立提案システムが導入され、業務の時短と負担軽減につながっています。
ただし、「飽きがこないように工夫する」「利用者の好みに合うアレンジをする」などの細やかな対応は、管理栄養士の知識と経験が欠かせません。
栄養価計算
AIは、食材や料理の情報をもとに正確な栄養価を瞬時に算出し、管理栄養士をサポートすることも可能です。近年では、スマートフォンで撮影した食事画像から栄養素を推定するアプリなども登場し、日常の食事の記録・管理に役立っています。
ただし、AIが出力した数値をもとに、どのような評価をして、どのようにアドバイスをするかの判断は、管理栄養士の専門的な視点が求められます。
栄養指導やセミナーに必要な資料づくり
AIは、管理栄養士が栄養指導やセミナーで使用する資料や図表をスピーディーに作成できます。グラフやイラストの生成など、手間のかかる作業を効率化できる点が大きなメリットです。
ただし、相手の理解度や関心に合わせて内容を調整することや、わかりやすく伝える工夫は、人間にしかできないスキルです。
AIで代替できない管理栄養士の仕事
管理栄養士の仕事のなかには、AIでは代替できない「人間ならでは」の役割もあります。AIで代替できない管理栄養士の主な仕事は下記になります。
個人に寄り添った献立管理
個々の体調や好みに合わせた個別対応の献立作成は、AIには難しい管理栄養士の重要な役割です。例えば、栄養バランスがとれていても、毎日似たようなメニューが続けば、「食欲の低下」や「飽き」の原因になります。管理栄養士は、食材の組み合わせや味つけ、彩り、季節感などの工夫を凝らし、「楽しく、おいしく食べられる献立」の設計が可能です。
これは単なる栄養管理ではなく、食を楽しむことを通じて生活の質(QOL)を高める支援でもあり、治療や介護のモチベーション維持にもつながります。
共感力を活かした栄養指導
生活習慣や嗜好、家庭環境、経済状況などに合わせた、共感的なアプローチによる栄養指導は、管理栄養士にしかできません。
例えば「甘いものがやめられない」「ひとり暮らしで料理が難しい」といった悩みに対し、頭ごなしに指導するのではなく、相手の気持ちに寄り添った現実的な提案をすることが求められます。こうした柔軟な対応には、共感力や観察力、コミュニケーション力が必要であり、それはAIにはまねできない、管理栄養士の強みです。
医療チームとの連携・調整
管理栄養士は、病院や介護の現場で、医師や看護師、薬剤師、理学療法士など他職種と連携し、患者へ最適な栄養管理をします。その際に求められるのは、高いコミュニケーション力と協調性です。
患者の症状や希望、食欲や嚥下能力などを共有しながら、チーム内で意見を調整し、状況に応じた柔軟な判断を下す必要があります。こうした信頼関係にもとづく連携は、人間同士の感情や意図のくみ取りが不可欠であり、AIでは代替が難しい重要な役割です。
管理栄養士の資格を活かせる職場
管理栄養士の資格と知識は、医療・福祉分野だけでなく、企業や教育機関、スポーツ、行政など幅広いフィールドで活かすことができます。ライフステージやキャリアの方向性に合わせて働く場所を選べる点も、管理栄養士の大きな魅力です。
●病院や介護・福祉施設
●企業の研究職や商品開発
●学校給食や社員食堂
●アスリートが所属する団体
●保健所などの行政機関
関連情報:管理栄養士の就職先は?活躍できる場所や仕事内容、選び方を解説
病院や介護・福祉施設
病院や介護・福祉の現場は、管理栄養士の専門性がもっとも発揮される職場といっていいでしょう。病院では入院患者や外来患者の食事管理や栄養指導をします。また、介護施設では高齢者の嚥下機能や持病に配慮した献立作成、保育園では子どものアレルギーを配慮した献立作成などを担当します。
とくに高齢化が進む日本において、病院や介護施設では、今後さらに管理栄養士のニーズが高まると見込まれます。
関連情報:病院・クリニックで働く栄養士・管理栄養士のお仕事とは?
関連情報:高齢者施設で働く栄養士・管理栄養士のお仕事とは?
関連情報:保育園で働く栄養士・管理栄養士のお仕事とは?
企業の研究職や商品開発
食品メーカーや健康食品を扱う企業では、管理栄養士が研究職や商品開発に携わるケースもあります。栄養の知識を活かし、「新商品の栄養設計」「レシピ開発」「成分表示の監修」などを行うほか、レシピサイトやWebコンテンツで情報発信を担当することもあるでしょう。消費者の健康志向が高まる今、管理栄養士の企業内での役割も広がっています。
関連情報:研究・教育機関で働く栄養士・管理栄養士のお仕事とは?
学校給食や社員食堂
学校の給食や企業の社員食堂で、健康的な食事の提供を支える仕事もあります。学校給食では成長期の子どもに配慮した献立作成やアレルギー対応などを行います。栄養教諭の資格を取得すれば、給食の管理のほか教壇に立って子どもたちに食についての知識を教えることも可能です。
また、企業の社員食堂では、働く人の健康維持やパフォーマンス向上を目的としたメニューづくりなどが求められます。大量調理や衛生管理の知識も求められる分野です。
関連情報:学校で働く栄養士・管理栄養士のお仕事とは?
関連情報:栄養教諭とは?仕事内容・職場での役割・必要な免許も解説
アスリートが所属する団体
スポーツチームやアスリートのサポートチームで活躍する管理栄養士も増えています。運動パフォーマンスを最大限に引き出すための栄養指導や食事管理を行い、監督やトレーナーと連携しながら、試合前後のコンディショニングを支える重要な役割を担います。公認スポーツ栄養士の資格をとると、より専門的な分野で活躍できるでしょう。
関連情報:スポーツ栄養分野で働く栄養士・管理栄養士のお仕事とは?
保健所などの行政機関
自治体や保健所、保健センターといった行政機関で、管理栄養士は地域住民への栄養相談や健康指導、地域イベントでの啓発活動などを行います。地方公務員試験に合格する必要がありますが、安定した雇用環境と地域への貢献性の高さが魅力です。
関連情報:行政機関で働く栄養士・管理栄養士のお仕事とは?
関連情報:地域で働く栄養士・管理栄養士のお仕事とは?
管理栄養士としてスキルアップできる資格
管理栄養士としてのキャリアをさらに広げたいと考える人にとって、専門性を高める資格の取得は大きなステップアップにつながります。働くフィールドや対象者に合わせて、下記のような自分の得意分野を活かせたり、関心があったりする資格を選ぶことで、転職や独立といった将来の可能性も広がるでしょう。
●公認スポーツ栄養士
●糖尿病療養指導士(CDE)
●介護支援専門員(ケアマネージャー)
●在宅訪問管理栄養士
●フードコーディネーター
●食物アレルギー分野管理栄養士・栄養士
公認スポーツ栄養士
公認スポーツ栄養士は、スポーツ選手やアスリートの栄養管理に関心がある方におすすめの資格です。公益社団法人日本栄養士会と公益財団法人日本スポーツ協会による共同認定資格で、競技特性に応じた栄養戦略や食事指導の専門知識を身につけられます。スポーツ分野での実践経験も要件となるため、より実務に即した資格といえるでしょう。
関連情報:スポーツ栄養学のスペシャリスト!公認スポーツ栄養士になるには?
関連情報:「選手とともに一流を目指す」公認スポーツ栄養士が語るやりがいと働き方
糖尿病療養指導士(CDE)
糖尿病患者への継続的な支援をしたい場合は、糖尿病療養指導士(CDE)の資格取得がおすすめです。食事、運動、薬物療法など、セルフケアを総合的にサポートするスキルが求められます。糖尿病療養指導士は、管理栄養士のほか、看護師や薬剤師、臨床検査技師、理学療法士も取得できる資格です。
介護支援専門員(ケアマネージャー)
高齢者福祉や介護現場での経験を活かしたい人には、介護支援専門員(ケアマネージャー)の資格を取得するのもいいでしょう。利用者の生活状況を把握しながら、最適なケアプランを立て、各種サービスとの連携・調整をする役割を担います。栄養管理の視点を活かした包括的な支援が可能になります。
在宅訪問管理栄養士
在宅訪問管理栄養士とは、在宅療養者を対象に家庭を訪問して、栄養指導をする専門資格です。通院が困難な人に対して、個別の生活環境や疾患状況を踏まえたサポートをします。医師や看護師、ケアマネージャーなどとのチーム連携も多く、地域医療に貢献できる分野です。
関連情報:在宅訪問管理栄養士とは?必要とされる理由や仕事内容、資格の取得方法
フードコーディネーター
食の知識を活かしてメディアや商品開発に関わりたい人には、フードコーディネーターの資格がおすすめです。資格を取得せずに名乗ることもできますが、日本フードコーディネーター協会の認定資格(3級~1級)を取得し、基礎知識を学んでおくと、レシピ監修、料理撮影のスタイリングなどに役立つでしょう。食に関するコンテンツ企画など、感性と表現力が求められる際の基礎を身につけられます。
食物アレルギー分野管理栄養士・栄養士
食物アレルギー分野管理栄養士・栄養士は、食物アレルギーを持つ人への食事支援に特化した資格です。食物アレルギーに関する知識や対応を学び、調理現場でのリスクマネジメントや保護者・本人への教育活動も行います。保育園や高齢者施設など、ニーズが高まる分野で専門性を発揮できます。
管理栄養士の資格を活かせる職場でキャリアアップを目指そう
管理栄養士は、医療や福祉の現場にとどまらず、企業、教育、スポーツ、行政など、幅広い分野で活躍できる専門職です。AI技術が進化するなかでも、相手に寄り添った対応やチーム医療における連携といった「人にしかできない役割」は、今後も変わらず求められるでしょう。
自分のライフステージや興味に合った職場を選びながら、スキルアップや関連資格の取得を通じて、より多様なフィールドでキャリアを広げていくことが大切です。

よくある質問
管理栄養士の仕事は将来なくなる?
管理栄養士の仕事は、「高齢化社会による活躍の場の拡大」「健康志向の高まりと食育の需要」「AIでは代替しにくい国家資格」といった理由で社会のニーズが高まっており、将来性のある仕事といえます。全国栄養士養成施設協会「卒業生の就職率と就職先」によると、2023年度の養成施設卒業生(管理栄養士・栄養士)は1万7,083人で、そのうち就職率は90.1%と非常に高い水準を維持しており、ニーズの高さがうかがえます。
AIで代替できない管理栄養士の仕事は?
管理栄養士の仕事のなかには、「個人に寄り添った献立管理」「共感力を活かした栄養指導」「医療チームとの連携・調整」など、AIでは代替できないものもあります。単なる栄養管理ではなく、食を楽しむことを通じて生活の質(QOL)を高める支援をし、患者の治療や介護のモチベーション維持につなげることも管理栄養士の大切な役割です。
管理栄養士の知識を活かせる職場は?
管理栄養士の資格と知識は、「病院や介護・福祉施設」「企業の研究職や商品開発」「学校給食や社員食堂」「アスリートが所属する団体」「保健所などの行政機関」など幅広いフィールドで活かすことができます。ライフステージやキャリアの方向性に合わせて働く場所を選べる点も、管理栄養士の大きな魅力です。
栄養士の就職・転職なら「栄養士のお仕事」におまかせ!
栄養士/管理栄養士の転職をサポートする『栄養士のお仕事』にはさまざまな求人情報を掲載しています。
あなたにピッタリの求人や好条件の非公開求人などもあるので、気になる方は下の画像をクリック!