管理栄養士は、医療・福祉・教育・行政・企業など多様な分野で活躍が期待される専門職です。厚生労働省「栄養施策の動向について」においても、人材確保や制度整備の必要性を明記しており、今後ますます需要が高まると見込まれています。一方で、「自分に合った進路がわからない」「キャリアアップの方法が見えない」と感じている方も多いのではないでしょうか。
この記事では、管理栄養士がキャリアプランを考える際に押さえておきたいポイントや具体的なキャリアプランのほか、キャリアアップの例について解説します。
【この記事でわかること】
●管理栄養士のキャリアプランには多様な選択肢があり、自分の興味や目標に応じて進路を選べる
●病院勤務や研究職、栄養教諭、フリーランスなど、それぞれに合ったキャリアプランの例がある
●キャリアプランを実現するには、専門資格の取得や分野転換、マネジメント職への挑戦など、行動を具体化することが大切

管理栄養士資格は国家資格でありながらも取得者は多く、厚生労働省「管理栄養士・栄養士関係」に掲載されている管理栄養士・栄養士免許交付数によると、管理栄養士名簿登録者は2024年現在で29万人(累計)、栄養士免許取得者は2023年現在で118万人(累計)です。またAIの躍進もあり、栄養管理業務が手軽に行える未来も見えてきました。その中で、やりがいと安定した収入を得続けるためには、将来を見据えたキャリアプランを見つめ直すことが重要です。
目次
管理栄養士のキャリアプランを考えるポイント
管理栄養士としてのキャリアを築くには、自分に合った方向性を見極めることが大切です。ここでは、キャリアプランを考えるうえで押さえておきたい3つのポイントを紹介します。
自分の興味や得意分野を明確にする
管理栄養士として自分に合ったキャリアプランを考えるには、まず、自身の興味や得意分野を整理することが重要です。管理栄養士は医療・福祉・教育・企業など、さまざまな分野で活躍できるため、どの分野に関心があるのかを把握すると、キャリアの方向性を定めやすくなります。
例えば、「人と関わるのが好き」という人は病院や介護施設、「教育に関心がある」という人は栄養教諭など、自分の強みや関心につながるキャリアプランを描くといいでしょう。
短期的な目標と長期的な目標を設定する
キャリアプランを考える際は、短期と長期で具体的な目標を設定します。例えば、下記のように目標設定するといいでしょう。
●5年後(短期目標):実務経験を積み、基本的なスキルを習得しながら、得意分野や関心のある領域を見つける
●10年後(長期目標):「管理職を目指す」「専門分野のエキスパートとして活躍する」など、キャリアの幅を広げる
将来のプランに迷った場合は、日本栄養士会が提供する「生涯教育制度」を参考にしてみるのもおすすめです。段階的な成長の道筋が整理されており、キャリア設計のヒントになります。
■日本栄養士会の生涯教育制度
参考:公益法人 日本栄養士会「キャリアアップのための生涯教育制度と3つの認定制度について」
業界のトレンドやニーズをリサーチする
キャリアプランを具体的に描くためには、学会や専門誌で情報を集め、業界の動向や社会のニーズを把握することも欠かせません。どの分野で管理栄養士が求められているのかを知れば、将来性のある分野や需要の高い仕事が見えてきます。
例えば、高齢化の進行に伴い、今後は在宅医療や介護施設での栄養管理への関心がさらに高まると考えられるため、この分野で求められる知識やスキルを身につければ、活躍の場を広げやすくなります。
また、AI技術の躍進により、誰でも手軽にレシピ作成や栄養価計算ができるようになった現在では、世間のトレンドを把握し、管理栄養士としての専門性をより高めることも重要です。
管理栄養士のキャリアプランの例
管理栄養士のキャリアは病院や福祉施設以外にも、さまざまな選択肢があります。ここからは、管理栄養士のキャリアプランの例をいくつか見ていきましょう。
病院や福祉施設
病院や福祉施設は、管理栄養士の専門知識を活かしやすい職場のひとつです。特に総合病院や大学病院などでは、教育体制が整っており、段階的なスキルアップが目指せます。臨床経験を積めば、専門分野に進んだり、認定資格を取得したりしてキャリアの幅を広げることも可能です。
また、高齢者施設などの老人福祉施設や保育園などの児童福祉施設などの分野でも、栄養ケアマネジメントや給食管理者として活躍の場が広がっています。
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研究職
管理栄養士として栄養学を深めたい人には、大学や研究機関、企業などでの研究職という選択肢があります。大学や公的研究機関では、栄養や食に関する研究を行い、論文執筆や学会発表を通じて知見を発信するのが主な業務です。企業では、新商品の開発、栄養成分表示の作成、原材料の分析など、実用的な研究業務が中心になります。
ただし、大学や研究機関で研究職として働く際は、大学院の卒業資格が求められるケースもあります。
また、管理栄養士課程以外の学科から研究職に進む方も多いのが現実です。栄養士課程に限らず、農学科や公衆衛生の大学院を経由するのも手段のひとつです。
●食品メーカー:原材料の分析、機能性食品の開発、栄養成分表示の確認、レシピの監修
●大学・研究所:研究テーマにもとづく調査・実験、データ分析、論文執筆、学会発表
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栄養教諭
学校で子どもたちに栄養の大切さを伝える栄養教諭も、管理栄養士のキャリアプランのひとつです。栄養教諭は、給食管理だけでなく、児童・生徒への授業を通じた食育の推進にも関わります。まずは学校栄養職員として経験を積み、その後に栄養教諭へとキャリアアップするケースもあります。
栄養教諭になるには、管理栄養士の資格のほかに、教員免許の取得も必要です。「子どもの健康を支えたい」「食育に携わりたい」という思いがある人に適したキャリアであり、教育分野でのやりがいを実感できる仕事です。
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行政栄養士
行政栄養士は、自治体、省庁、保健所、保険センターなどで地域住民の健康づくりを支援する公的な役割を担います。母子保健や高齢者の栄養指導、生活習慣病予防などを通じて、広い視点で食と健康を支える仕事です。
行政機関で働くには、管理栄養士の資格のほかに公務員試験の合格が必要ですが、安定した環境で専門性を活かしたい方に向いています。
ただし、大きな行政では配属の希望が通らないことも多く、希望する分野の経験が積めるとは限らない点に注意が必要です。反対にいえば、さまざまな分野での経験を積むことができるため、ジェネラリストを目指す方におすすめです。
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スポーツ栄養士
スポーツ選手のパフォーマンス向上や体調管理を食事面から支えるスポーツ栄養士は、管理栄養士の専門性を活かせるやりがいのあるキャリアです。アスリートの目標や競技特性に合わせた栄養指導が求められるため、公認スポーツ栄養士などの専門資格があると強みになります。プロチームや学校、地域のクラブチーム、スポーツジムなど活躍の場も多く、「食」でスポーツを支えたいという思いを持つ方に適した働き方です。
人気に対して求人が少なく、離職も少ないため、狭き門ではあります。トレーニングセンターやプロチーム、プロ選手個人と契約できると専門性も高く、収入面でも安定しますが、アマチュアチームではボランティアになることも少なくありません。
スポーツ外科やスポーツ内科などスポーツに特化したクリニックに勤務したり、給食委託会社から練習場の食堂に勤務したりすると比較的携わりやすいでしょう。
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フリーランスの管理栄養士
企業や医療現場で経験を積み、将来フリーランスの管理栄養士として独立するキャリアプランもあります。働く時間や仕事内容を自分で決められる自由度の高さが特徴で、「自分らしい働き方を追求したい」「幅広く活動したい」という方に向いています。実績や専門性を積み上げれば、メディア出演や商品開発の監修など、大きな仕事につながることもあるでしょう。
また、特定保健指導の業務委託はフリーランスの管理栄養士に人気の業務です。委託元の企業により内容がさまざまなので、自分に合った会社を選ぶことが重要です。
●レシピ開発
●記事の執筆・監修
●食事指導・カウンセリング
●講師・セミナー登壇
●スポーツ栄養サポート
●特定保健指導
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飲食店
管理栄養士のキャリアプランとして見落とされがちですが、飲食店は管理栄養士の知識を大いに活かせる分野です。衛生管理の指導やアレルギーリストの作成、健康志向のニーズに即したメニュー開発など専門性の高い業務も存在します。知識を活かし、お客様満足度や売上に貢献するやりがいがあります。
キャリアプラン実現に向けてできること
キャリアプランを考えたら、それを実現するために転職や資格取得などの行動に移します。ここからは、キャリアの方向性を定めるうえで意識したい視点や、実際に行動へ移すための考え方について紹介します。
違う分野の就職先に挑戦する
キャリアアップを目指すうえで、興味のある分野や新たな職場への転職を検討するのも有効な選択肢です。管理栄養士の活躍の場は下記のように、さまざまな業界で広がっており、スキルを活かせる場はひとつに限りません。
●医療機関
●介護・福祉施設
●一般企業
●教育機関
●スポーツチーム
●飲食店
これまでの経験を活かしつつ、新しい環境で視野を広げることは、キャリアの可能性を大きく広げるきっかけになります。
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専門分野のエキスパートを目指す
特定の分野でエキスパートを目指すのも、管理栄養士としての強みを活かすことにつながります。学会や勉強会に参加するだけでなく、下記のような資格を取得することも、キャリアの確立の手助けになるでしょう。
●静脈経腸栄養(TNT-D)管理栄養士
●在宅訪問管理栄養士
●公認スポーツ栄養士
●食物アレルギー分野管理栄養士・栄養士
●小児栄養分野管理栄養士・栄養士
出典:日本栄養士会「特定分野別 認定制度」
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●がん病態栄養専門管理栄養士
●腎臓病病態栄養専門管理栄養士
●糖尿病病態栄養専門管理栄養士
●摂食嚥下リハビリテーション栄養専門管理栄養士
●在宅栄養専門管理栄養士
出典:日本栄養士会「専門分野別 認定制度」
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マネジメント職を目指す
組織運営に関わりたい人やチームの成長に貢献したいと考える人にとって、マネージャーやリーダー職を目指すことは、キャリアプランを実現に向けた有効な選択肢です。マネジメント職では、日々の現場業務に加え、人材育成や業務の調整・改善といった、より広い視点が求められます。
マネジメントや組織運営に関心がある人は、「栄養経営士」の資格取得もおすすめです。一般社団法人日本栄養経営実践協会が主催・認定する民間資格で、チームや施設の運営に関わる実践的な力を養うことを目的としています。取得を通じて、リーダーシップ、業務改善、人材育成、リスクマネジメントなど、栄養管理の経営に必要なスキルを体系的に学べます。

よくある質問
管理栄養士のキャリアプランを描くポイントは?
管理栄養士のキャリアプランを描くポイントは、「自分の興味や得意分野を明確にする」「短期的な目標と長期的な目標を設定する」「業界のトレンドやニーズをリサーチする」です。特に、キャリアプランを具体的に描くために、学会や専門誌で情報を集め、業界の動向や社会のニーズを把握することも欠かせません。
管理栄養士のキャリアプランの例は?
管理栄養士のキャリアプランとして、病院や福祉施設以外にも、病院や福祉施設、研究職、栄養教諭、行政栄養士、スポーツ栄養士などの例があります。また、企業や医療現場で経験を積み、将来フリーランスの管理栄養士として独立するといったことも可能です。
管理栄養士のキャリアプランを実現するために必要なことは?
管理栄養士のキャリアプランを実現するためには、「違う分野の就職先に挑戦する」「専門分野のエキスパートを目指す」「マネジメント職を目指す」などを行うといいでしょう。エキスパートを目指す場合は、日本栄養士会の特定分野別の認定制度や専門分野の認定制度を利用し、必要な資格をとることも有効です。
キャリアプランによっては転職もおすすめ
管理栄養士として理想のキャリアを実現するためには、転職という選択肢も視野に入れることが大切です。現職では得られない経験やスキルを積むことで、新たな可能性が開けます。
明確な目標がある場合は、その分野に強い職場へ移ることでステップアップにつながります。キャリアの方向性が見えてきたら、前向きに行動を起こしてみましょう。
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